#夜の海
「夜の海ってきれーだよね、アリス」
「ええ、そうね、さいり」
大きな月が浮かぶ星空、きらりと光る白い砂浜、波が寄せては返し小さな音を立てる。世界に二人しかいないように二人の声だけが響く。
「昼の海は来たことあったけど、夜は初めてですね」
時折り吹く風にアリスの長髪とワンピースの裾が揺れる。水に濡れるのを気に留めず、波打ち際で貝殻を探し始めるさいり。アリスはさいりを愛おしげに見つめる。
「そーだねぇ、昼はいつも忙しいしね!」
さいりは貝殻を見つけてはこれじゃないと後ろに投げる。指に砂をくっつけて探し続け、紫と赤……アリスの瞳の色をした貝殻を見つけ微笑んだ。
「変な色の貝殻いっぱい落ちてて面白い〜」
「お気に入りが見つかったの、見せて?」
「だめー」
さいりは見つけた貝殻をポケットにしまって走り出す。
「次は屋台に行こ! 美味しいものあるといいな〜」
「はいはい」
二人は今日も平和だ。
待っててね。
ちょっと待っててね。
あなたが他人にいじらめれているのを見ているだけでごめんね。
あなたが親に見放されているもを見ているだけでごめんね。
すぐに、むかえにいくからね。
ぼくの、およめさん。
「この場所で、また。」
そう言って旅立つ。
いつまで待ってればいいのかしら。
次のあなたはいつ来るのかしら。
転生の術を毎回あなたにかけるのも飽きてしまいそうだし、毎回待つだけ待ってここで出会い、別れる展開にも飽きてしまったわ。
でもあなたのその顔だけは見飽きないの。
この卑しい邪神にまたその顔を見せに来て。
ほら、来てくれた。
花束を掲げよう。
あなたにこの薔薇を、この愛を捧げます。
花束を飾ろう。
あなたと我が家族にこの蒲公英を、この真心を捧げます。
花束を送ろう。
あなたと我が家族にこの蒲公英を、この別離を捧げます。
すまない、我が伴侶と我が子よ。
花束を通じてしか伝えられない言葉ですまない。
#たそがれ
黄昏。夕方は人の姿が見分けにくく、“誰そ彼”と聞いていたことが由来という。
「ねえ、アツシ」
「……」
「ねぇってば、無視しないでよ」
「……」
あいつは、そもそも家が別方向だからさっき曲がり角で別れたばっかりなんだ。
「ねぇ、さっき僕に声かけたじゃん」
「……」
「ネェネェネェ、アツシ。イカナイデ。」
「……っ」
この人じゃないの、誰? なんであいつと同じ格好してるんだ。でも絶対あいつじゃないってすぐわかる。だって、あいつがいつも大事そうにしてるキーホルダーがバッグについてねえもん。たぶん幽霊とか、そういうのなんだこいつ。
もう居ても立っても居られなくて、走って逃げた。
足は遅かったから助かった。でもずっと、俺の名前を呼んできて、怖かった。
———とある記事。
男子小学生(7)が下校中、車に轢かれて亡くなりました。目撃者によると男児は横断歩道でずっと何かを探しており、それに気づかずに車に轢かれたとのことです。車は逃走中で、警察は……。