★イブの夜★
もしも一生にたった一度だけ
聖なる夜の願いが叶うなら
祈りが届くのなら
あなたと、一緒の時を生きたい。
私だけを見てほしいなんて思わない。
医師としてのあなたは本当に眩しくて、誠実に向き合う姿がカッコ良くて、そんなあなたが大好きだから。
だけど
あなたが医師としてじゃなく、1人の人としてのあなたでいる時
あなたの隣で
あなたと同じ時間を過ごせたなら
あなたの隣で
他愛ない話をたくさんして、あなたとたくさん笑い合えたなら
あなたの傍らで
私しか知らない色んなあなたが見られたなら
あなたのすぐ側で
あなたが安心して心をほどける居場所でいられたなら
それだけで、私は幸せ。
想いを胸に抱けば
心はあなたで満ち溢れていく……
温かな記憶にそっと目を閉じて
私のイブ(きょう)が更けていく
この願いが叶うなら
私はもう、なにも望まないーーー
★何でもないフリ★
先生に会える時、私はいつも心を殺す。
嬉しさや幸せを出してはいけないって分かってる。
だって、先生に会うのは病院で、私は先生に患者として診てもらっているから。
けど……だけどね先生。
本当はすごく必死なんだよ。
ほんの数センチしか離れてない先生との距離にも、穏やかな声が紡ぐ一言一言にも、とても安心できる力強くて温かな手にも、時々見せてくれる素の部分(かお)にも……本当は心臓が持つか怖くなるくらいドキドキしてる。
私の耳に、先生の息遣いさえ聞こえてしまうように、このドキドキが、先生にも聞こえてしまってるんじゃないかって。
いつも必死で平静を装ってる。
まるで何にも感じていないように、患者として以外無感情に接してるフリ……。
本当は今すぐに、その温かい手をギュッと握りたいのに。
本当は、離れたくないって伝えたいのに。
本当は、先生が大好きって伝えたいのに。
ねぇ先生。医師として、人の気持ちや痛みに敏感な先生には、もしかしたら私の気持ちなんて見抜かれてるかも知れない。
それでも、私は何でもないフリをする。
だって、見てたらわかるの。
医師の仕事にやりがいと誇りを持ってること、今はその道をひたむきに真っ直ぐに、夢中で走っていること。
そんな先生を見るのが大好き。そんな先生の邪魔はしたくない。
だから、この想いが溢れ出してしまわないように、私はウソの心を何枚も着込んで自分を殺す。
★夢と現実★
それは本当に、怖いくらいに幸せな時間だった。
私はその幸せに心を預け、身をゆだねた。
あぁ…このまま時が止まってしまえばいいのに……。
ふと…目を開ける。
ーーなんだ、夢だったんだーー
あなたの声も、抱き締めてくれた腕の強さも、温かさも、全部ハッキリ覚えてる。
ちゃんと覚えてるのに……
目が覚めればそこにあなたはいない。
途端に切なさに押し潰されそうになる。
どうして…どうしてあんな夢を見たんだろう。あのまま目覚めなければ良かったのに……!
痛いよ。
突き付けられる現実は、どんなナイフより痛くて泣きたくなる。
残酷な現実と温かな夢……もしも逆ならどんなに幸せだっただろう……。
★距離★
ほんの少し、手を伸ばせば届くのに。
私があなたに触れることはできない。
目の前には確かにあなたがいるのに。
私とあなたの間には、まるで見えないバリアがあるみたいで。
どんなに深く想っても
どんなに強く願っても
それがあなたに届くことは、ない。
あなたはとても近くて、とても遠い。
許されるならーーー
その手に触れたい。その肩に触れたい。その頬に、髪に触れたい。
少しでいい。この手に貴方の温もりを感じることができたなら……。
それだけで……それだけでいい。
きっとそれだけで、一生分の幸せをもらえる気がする。
だけど、それは叶わない。
先生(あなた)を好きになったことを…この恋を、神様は多分、許してはくれないから。
★微熱★
本当に、どうかしてしまった……そんなこと、痛いくらい自覚してる。
だけどもう、どうしようもない。
どうしていいか分からない。
あなたの目に、あなたの声に、あなたの手に、笑顔に、些細な仕草に、優しさに、温かさに、その存在に、その眩しさに
心ごと抱(いだ)かれてーーー
私の心臓(からだ)はもうずっと、冷めない微熱を帯びたまま。
あなたの隣で、あなたと生きる未来……夢物語だなんて分かってる。
住む世界が違うって、近くて遠いって……そんなの分かってる。
それなのに、ありもしないことを期待してる自分がバカだって……自分がいちばん分かってる。
もう……気持ちにブレーキが効かない。
この熱を下げる術(すべ)が、私には分からない。
いっそあなたへの想いで溶けて消えてしまえたなら
ずっと幸せなままでいられるのかな。