★何でもないフリ★
先生に会える時、私はいつも心を殺す。
嬉しさや幸せを出してはいけないって分かってる。
だって、先生に会うのは病院で、私は先生に患者として診てもらっているから。
けど……だけどね先生。
本当はすごく必死なんだよ。
ほんの数センチしか離れてない先生との距離にも、穏やかな声が紡ぐ一言一言にも、とても安心できる力強くて温かな手にも、時々見せてくれる素の部分(かお)にも……本当は心臓が持つか怖くなるくらいドキドキしてる。
私の耳に、先生の息遣いさえ聞こえてしまうように、このドキドキが、先生にも聞こえてしまってるんじゃないかって。
いつも必死で平静を装ってる。
まるで何にも感じていないように、患者として以外無感情に接してるフリ……。
本当は今すぐに、その温かい手をギュッと握りたいのに。
本当は、離れたくないって伝えたいのに。
本当は、先生が大好きって伝えたいのに。
ねぇ先生。医師として、人の気持ちや痛みに敏感な先生には、もしかしたら私の気持ちなんて見抜かれてるかも知れない。
それでも、私は何でもないフリをする。
だって、見てたらわかるの。
医師の仕事にやりがいと誇りを持ってること、今はその道をひたむきに真っ直ぐに、夢中で走っていること。
そんな先生を見るのが大好き。そんな先生の邪魔はしたくない。
だから、この想いが溢れ出してしまわないように、私はウソの心を何枚も着込んで自分を殺す。
12/11/2023, 10:56:02 AM