晩方、窓を開ければレェスが揺れる。

風に乗って愛しい人の晩ごはんを作りに行けたらいいのに。

鞄を背負い直して友に問う。

「もうここで旅を終わるって時、何食べたい？」
「パンケーキ！」
「カップ麺」
「俺はブレンド珈琲。……お前ら旅にも出てないくせに何言ってんだよ」

そうして僕らは旅に出た。

【旅路の果てに】

コロナに罹った。
料理の味が分からなくなってたらどうしよう。
食べ物の美味しさが半減してたらどうしよう。
そんな腕白な悩みを抱えながら汁物をひと吸い。
……柚子のつくね、うめぇ。


【ゆずの香り】

　蕾の膨らむ桜の木に枯れ葉が一葉留まっている。
　“私も咲き誇る花を見たかったのだ。”

【枯葉】

『寒くなってまいりましたので、どうぞ体調にはお気をつけください。』

最後の一文を書き終え、送信ボタンをぽちり。

「あっ」

誤植発見。よりによって、相手の名前。やってしまった。
あー、もうっ！

冷えピタを貼り直して、PCに向き合う。
深くため息をつくと早すぎる返信があった。
げんなりしながら開くと簡素な文章。

『温かなお心遣いありがとございました。
とても嬉しかったです。
そちらも御身体を大切に、どうぞご自愛ください。』

……あの、ほんとに、ご自愛ください。

【風邪】