冒険
「小学生の頃、知らない道を見つけたくて近所中の曲がり角を曲がってみてたんだ。ちょっとした冒険だったな」
夫はそう語ってくれた。
街の子どもの冒険って感じだな、と思った。
田舎の子どもの冒険はな、あの山を超えてみようとか、この坂を滑り降りてみようとか、この谷を下ってみようとか、ガチの冒険だったんじゃよ。
とマウントを取りそうになって抑えた。
届いて……私のもとへあらゆる富と幸運が、届いて……!!!
「ねえ見て、綺麗」
どこまでも美しく広がるオレンジの夕焼けに、彼女は目を細めて言った。
「あの日の景色を覚えている?大学時代、今日みたいに暑い日だった。あなたが」
「ああ、もちろん覚えているよ」
彼女の言葉を遮って僕は答えた。
それは僕が彼女に告白をして、OKをもらった日だ。忘れるはずもない。
彼女がぱあっと顔を輝かせて微笑む。
「やっぱり覚えてたのね!あなたがバイト代が入ったばかりの財布を落として泣いていた日の空も、こんな夕焼けだったよね」
「えっ」
「それからあなたが単位を落として留年しかけた時に、先生に土下座してくるって走って行った日もこんな風に綺麗なオレンジ色だった」
「えっ」
「焼肉に行って食べ過ぎてコンビニのトイレに駆け込んだあの日も」
「ちょっと待って」
彼女による僕のエピソード披露はこの後更に五つ続いた。
彼女の中で美しい夕焼け空は、僕の情けない姿と共にあるらしい。
これはこれで、愛されているのだと思う。
願い事ひとつ叶うなら
世界中の人々が苦しまず毎日を平和に、幸せに生きていけますように
そう書いた私の短冊を見た乙姫が
「なんと素晴らしい人間か。この方には五億円を振り込みましょう」
と言い、彦星は
「いや、それだけでは足りるまい。毎日夜更かししても健康を損なわない頑丈な身体を授けよう」
と言い、それが現実のものになりますように
空恋……?
昔、恋空という携帯小説がありましてね。
主人公は金髪の同級生と恋に落ち、金髪の元カノに嫌がらせを受け、妊娠し、流産し、別れ、再会し、金髪がガンになっており、結婚し、死に別れ、みたいなドラマチックな不幸全部詰めみたいな話でしてね。
それの真逆をやれば空恋になりますかね。
つまり主人公は真っ当な黒髪の同級生と恋に落ち、順調に交際を重ね、結婚し、家庭を築いて幸せになります。
いいじゃん、空恋。