昔、誰かがお椀の水にうつして月をつかまえたみたいに。
手のひらで水をすくって星空をうつしたら、宇宙をこの手に収められるんじゃないかって思ったんだ。
この真冬に外で水をすくうなんて、冷たくて寒いからきっとやらないけれど。
想像しただけでもちょっと素敵な気がするね。
手のひらの宇宙。今宵はオリオン座を手に。
舞い上がるビニール袋
吹っ飛んだ布団
隙間風の叫び
それは風のいたずら
こげない自転車
揺らめく橋
遠くから牛糞の匂い
これも風のいたずら
校庭に渦巻いた小さな竜巻
木々のざわめき
流される雲
どれも風のいたずら
目に入る砂ぼこり
乱れる髪
窓の振動
全部 風のいたずら
風は目に見えないのに
そこかしこで主張を繰り広げる
気付いた時にはすでに
遥か遠くへ逃げ去ってたりして
今日も風は私達を通り過ぎてゆく
透明な涙をすくって小瓶に集めたら
うっすらと色が付いていたんだって
悲しくて流した涙は藍色に
悔しくて流した涙は鈍色に
笑い過ぎて流した涙はオレンジ色に
嬉しくて流した涙は桜色に
今日あなたの流す涙はどんな色
明日わたしが流す涙はこんな色
あなたのもとへ
明るい未来が訪れますように
彼女のもとへ
幸せな夢が届きますように
誰かのもとへ
美しい愛が舞い降りますように
私のもとへ
五億円が振り込まれますように
私の想いはいつでも一方通行
あなたが必要で、触れたくて
穏やかに受け入れてほしくて
そっと、そーっと慎重に指先を近付けた
あなたとの距離が少しずつ縮まってゆく
あと5センチ
今日こそはと信じている
あと3センチ
緊張感が高まってゆく
あと1センチ
ああ、ついに……!
──パチン!と音が鳴り、青く小さな稲妻が走った
指先にはただ鋭い痛みだけが残されている
ああ、今日も駄目だった
私の想いはやっぱり一方通行
あなたはいつでも静電気で私を弾くの
ねえ、職場のロッカー
いつになったらあなたに穏やかに触れるの