心の灯火
心の灯火が、消えないように、消えないように、必死に抱え込んで守っても、両の手の隙間から風が吹き抜けて、はかなく、はかなく、生きていられない夜になる。
開けないLINE
LINEのパスワードを忘れてしまった。
高校時代の思い出が淡い六つの数字によってつなぎ止められていた。
パスワードを入力しようとして、辞める。
開けなくなったLINEの中、あの日の僕らはそこにあった。何ひとつが失われずにそこにあったのだ。
不完全な僕
ちょっぴり完璧な僕の演出。
自分はそこそこできると自覚してるけど、見上げると上には上がいて、空は青いけどとなりの芝生も青い。
やっぱり太陽は眩しいから真っ直ぐ前だけを見つめて歩く。背筋を正す。ながらスマホより、ながら単語帳の方が立派そうだからそうするけど、赤信号で止まるのは難しい。真っ直ぐ前を見て歩く。背筋を正す。
靴箱。靴下に穴が空いていて、萎えた。
香水
「香水つけてる?」
「うん」
「ドルガパ?」
「男ってみんなそれ言うよね」
「主語がデカすぎる」
香水を鼻歌で歌う君。冷蔵庫からウイスキーを取り出すその横顔はキザな男そのままなのに、その実君は香水を知らない。
「何年前だっけ、それ」
「えー、そっか。もう年単位で前なわけだ。そりゃ歳もとるよねー」
「おばさんって?」
「違うから笑」
そのまま彼は私の横に腰を下ろす。広いソファーベッドと無駄に大きいテレビが、部屋の中に鎮座している。
「結局その香水なんなの」
「LANVINの、MY SIN」
「ふーん」
「聞いといて興味なさすぎる」
リモコンを手に取る君に、香水をワンプッシュ吹きかける。
「あげる」
「……ねーさ、人は同じ匂いの人に性欲抱かないんやって」
「へー、試してみる?」
トン、と肩を押されてソファーにもたれかかる。君の吐息を近くに感じて目を瞑った。
「香水かけた意味なかったじゃん」
「きみのせいだよ」
言葉はいらない、ただ……
なんていう言葉を使っても、どうしようもなくあなたに応えて欲しかった