これは涙の魔法。
ちいさな泣き虫ちゃんが次の日に、
目を真っ赤に腫らさない為のおまじない。
おでこをこつんとやさしくぶつけて、
あいしてる。
そう呟くの。
お母さん、わたしは上手に出来ているかな。
ねぇ、おぼえてる?
あなたとみた、にじのはなし。
くびをかしげるわたしに、あなたは
「見てご覧、あれは虹だよ。」
ってわらったわよね。
わたしだってそれくらいしってるわよ。
ばかにしないで。
はなをならしておさんぽをつづけたわよね。
あのひからどのくらいたったのかしら。
きっと、ずうっとながいじかんがだったのね。
わたしはもう、あのにじのはしをわたるひがきたわ。
もう。
いつまでもないてないで、あのひみたいにわらって。
わたしはまたあなたのところにかえってくる。
かぞくだもん。
ずっといっしょにいようねっていつもいってたもの。
また、わたしのなまえ、よんでよね。
だいすきなんだから!
音が出なくなった受話器を置く。
耳にはあなたの優しく甘い声が響く。
耳から心にじんわり、じんわりと染み込む。
すき、すき。
ずっとすきなの。
いまから夜空を掛けてあなたのそばに居られたらいいのに。
きっと大丈夫よ、と肩を抱いてあげたい。
ついうっかり、大好きだよ。と口を滑らせてしまいたいの。
冗談交じりのボックスに詰めたチョコレート。
中にはキュンと酸味の効いたラズベリーソースと
甘い愛が詰まっている。
丁寧に言い訳のリボンをかけたら出来上がり。
これはいつまでも素直になれない私から、
大好きなあなたへのひそかな想い。
頭が痛い。割れるように痛い。
目の前には私の手を握り、辛そうな表情をうかべるあなた。
あなた?
分からない、初めて見た人だ。
お母さんはわかる。弟もわかる。
この少女だけ、分からない。
少女は私の恋人だという。
全く理解ができない。
私に恋人なんて居ない。
それに、私は異性愛者だ。
あなたは、だれ?
なぜそんなに悲しい顔ができるの?
分からない。わからない。
私の記憶は、正常なのに。