- ずっとこのまま -
僕の指に君の指を合わせてみて
僕の指紋の凹凸は君の指紋の凸凹なんです
このまま僕の過不足を埋めてください
- 寒さが身に染みて -
メンソール入りのリップを私は使うことができません
別にアレルギーというわけではないの
唇が荒れることもありませんし、動悸や眩暈が起きることもありません
ただ、ひどく寒くなるんです それを使うと
身体の芯が震えて、歯を食器みたいにかちかちと鳴らして、毛布にくるまらないといけません
冬の寒空の下なんかで塗ってしまった日には もう駄目です 一度それをしてそのまま風邪をひいてしまったことがあるのです
だから ごめんなさい
あなたからの贈り物は受け取れません
妹さんなどに差し上げたらどうでしょう
あ、一人っ子なのですね。羨ましい
え?
それなら、僕が……ですか?
何が言いたいんですか?
…
……
………それ本気で言ってますか?
嫌です
気持ち悪い
- 20歳 -
私をシールの中に閉じ込めてください
きらきらとしたプラスチックを被せてください
星屑が漂う色水の中で揺蕩わせてください
私を剥離紙に乗せて 指でぎゅっと押し込んで かわいいバインダーで綴じてください
そのままあなたのシール帳のすみっこで 眠らせてください
誰かと交換なんか しないで
ずっと19歳のまま 私を保存して
- 三日月 -
好きな方がいます。
否、人ではありません。
私は月に恋をしています。
たおやかで、いじらしい、小さく控えめに光るあの方が好きです。この世の光るもの。全てが月の光でできていたら…と妄想せずにはいられない私です。
なぜ地球になど生まれてしまったのでしょう。なぜ私はかぐや姫ではなかったのでしょう。と夜な夜な泣いてしまう日もありましたが、この星でならあなたの姿がしっかりと見えることに気づいて、それ以来涙を流すことはなくなりました。はい。オプティミストなのです。私は。
幼い頃からこんな性分でしたので、人間の友達は1人もおりません。私もお月さま以外に興味は持てません。ただ1人、夏目漱石とならお友だち、ソウルメイトになれたかも、と思ったこともあります。ですが私以外にお月さまに焦がれる人がいるのは癪に触ります。なので夏目漱石は私のライバルとなりました。はい。同担拒否なのです。私は。
というわけなので私は月を購入いたしました。もちろん、全てを所有することはできなかったので、ほんの数分の1……三日月ほどの広さを購入いたしました。
ちょうど今日のお月さまは三日月の形をしていらっしゃいました。誰にも私のお月さまを見て欲しくないのですが、三日月の日だけは別です。空に浮かぶ薄く輝く細い月は、まるで天使の爪のかけらのような。そんな神聖な美しさです。あの三日月は全て私のものなのです。そう考えるといつもよりも心に余裕が生まれます。どうぞ私の愛するあの方をご覧ください。誰にも触れることはできませんが……といった気持ちです。顕示欲というやつです。ですがもちろんじろじろと不躾な目で見続けるのはおやめください。
いつかあなたと添い遂げるのが私の夢です。それまではどうかそのまま。すこやかに空に浮かんでいてください。隕石にはどうぞお気をつけください。
あなたが滅ぶくらいなら、地球に流れ星が降り注ぎますように。
- 色とりどり -
000000とffffffの世界しか知りません
それでもいいんです
単純だから ややこしくないから
000000とffffffの世界しか知りたくありません
その方がいいんです
きっと疲れてしまうから 悲しくなってしまうから
000000とffffffの世界に戻らせてください
狭間の1677万7216色に溺れていたくないんです
あなたはどこに行ってしまったのですか
色とりどりにまみれて 見失ってしまった
アリスブルー あなたのことが好きです