NoName

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5/14/2024, 2:21:01 PM

風に身を任せ

私は貴方と違う誰かによって身を宿し、
その誰かの息を頼りに生きています。
でもやがて、消えていく運命なら、
いつか風に身を任せ飛んでいきたい、あなたの元へ
そうしてあなたと伊吹を宿したい。

あ、しゃぼん玉、割れた。

5/12/2024, 10:33:52 AM

子供のままで

「りく、今日はお手伝いはしなくていいから、パパとおもちゃを買いに行こうか」
その日の父は穏やかにそう言ったものだから、幼かった私は目を丸くして答えた。
「いいの!?」
「あぁ、せっかくだから好きなおもちゃを買ってあげるよ」
今日は機嫌がいいのだろうか、どちらにしても、こんな機会は滅多にない。
「パパ、おんぶ!」
「よしきた!パパに任せなさい!」
父は私をおぶったまま、今まで一度も体験したことのないくらい、とんでもないスピードで駆け始めたものだから、びっくりして声を上げた。
「パパ!足痛くなっちゃうよ!」
「大丈夫さ、パパは強いから」
ほんの少し、父の声のトーンが下がったように感じたが、気のせいだと思った。
その後公園に行き、たまたま居合わせた友達と父も含めて息があがるくらい遊び尽くした。
他の友達のお母様方には「あなたのパパはすごいわねぇ」とたいそう羨ましがられて、なんだかこそばゆい気持ちで、いつもと違う父を見上げた。
父はひどく穏やかな顔をしている。
「パパ、帰ったら肩揉みしてあげよっか?」
「お、いいのか?」
「いいよ!今日のパパ、最高だったもん!」
「そうか、そうか」
父の肩を小さな手で掴んだ時、こんなに猫背だっただろうかと、何故かほんの少し、寂しい気分だった。
「パパ、明日もさ、一緒に遊んでくれる?」
「うーん…どうかなぁ、明日のパパは今日みたいに優しくないかもしれないぞ?」
「やだ!優しいパパがいい!」
「そうだな、パパもそうなればいいなと思ってるよ」

次の日、母が私を起こしてこう言った。
「りく、私たち、助かったわ…!」
しゃくりあげながら、焦点の定まらない目で、やがてくつくつと笑い始める。
そんな母の後ろには、天井からぶら下がる父の姿があった。私は黙ってゆっくりと立ち上がって、父の近くに寄っていくと、割れた食器と何本あるか分からない酒瓶を手にとって、全てを理解した。
「そっか…今日は悪いパパだったんだね」

そこまで思い出してから、浴室にうなだれたままの私は、またも酒瓶に口をつけて飲み干し、自重気味に笑った。
私はヒビの入った妻と娘の写真立てを手にとって、細目で見つめながら、とうとう練炭に火をつけた。
「来世は子供のままで、過ごせたらいいなぁ…。こんなもの、もうごめんだね」
最後の一滴を飲み干して、酒瓶を壁に向かって投げ付けると同時に、ぼんやりした意識の中で、両親と妻と娘が、そして私が、仲良さげに話している光景が見えた。
「ごめんな…。今日のパパは、悪いパパだったんだよ。おやすみ…」