痛いほど冷たい空気
そこに溶け込む沈黙
抱いている劣等感は耐え難いものだった
一方的に離れた心は気付かない方が幸せであった
話し方すら忘れた人に何を求めようというのか
15年友達をやってきたというのに
始め方が分からない
処理しきれない頭のまま
馴れ初めから話そうと心を決めると
ごめんなさい。
そう言われた
堪えたはずの涙がまた震えだした
通用する言い訳が思い付かない
――15年
短くはない時間が失われたことに脳が誤作動を起こす
お前は悪くない、振り出しに戻っただけ
だからまた話せばいい
感情を飲み込んで口を開く
はじめまして。
#9はじめまして
遅咲きの梅、咲き乱れる桜
窓を開ければ春風とともに舞い上がる
一面桃色に染まる瞬間は
息を呑むほど美しい。
馥郁たるこの部屋に
心を奪われるその感覚は
1200年前から訪れたご先祖様の仕業らしい。
#8春風とともに
雨が降ったあとにかかる虹を
幸福の兆しと呼ぶ者がいる
雨に隠した心はまた太陽に照らされる
四葉のクローバーもその一つなのだろうか
踏まれた傷から生える四つ目の葉は
花言葉で言えば復讐だ。
滅多に見られないから幸福
珍しいから幸福
症例の少ない難病までも君は選ばれた、と大人はいう。
ならば患った者は幸せなのか
そんな幸せの象徴の塊が虹だ。
なんせ七色でできているのだから。
素直に綺麗と思えない自分に
変わってしまったなぁと悲しくなる
病棟生活1ヶ月目
今日は虹が出たらしい
#7七色
胎内記憶
前世の記憶
見えないものと話した記憶
彼の世のものに触れた記憶
夢のなかで再現された誰かの記憶
他人に理解されないであろうものたちほど
魂が捉えた情景が酷似しているという
人は睡眠が表であり活動が裏である。
どこかで読んだ一説の世界が正しいならば
目の前の全ては神の嚮壁虚造なのか
遠く離れた人と記憶が似るのは
真の世界がここではないからなのか
歳を重ねても消えない記憶は
科学が悶えるそれであり
結局何を示すのか、我々は知らずに死ぬらしい
#6記憶
次見られるのは生まれ変わってからかな
台風が去って一夜明けた
快晴とはこの事だろうと言わんばかりの蒼穹
大人でさえ心が高鳴る
快晴の空なんていつでも見られるだろう
余命2週間の君の前で考えた
地球が生まれて約46億年
キリストを拝みたくても
ダヴィンチに教わりたくても
徳川家康に仕えたくても
時空の超越は宇宙人の存在よりも不可解で
一生に収まり切らない規模らしい。
君を惜しんで何十年
また同じ空の下にいる
ただ、隣は空白で静かに
黒い髪を靡かせた後ろ姿を思い出す
もう二度と見られない景色
もう一度だけ見たかった景色
#5もう二度と