【時計の針】※長文注意
一人。
この静かな時間は私が占領している、と言ってもいい位に静かだ。
都会から引っ越し、田舎に暮らすことを決めて、3週間。都会での仕事に苦痛を感じ、田舎で過ごすことを決めたのだ。私は仕事はできる。いや、めっちゃできる。そろそろ仕事を探し出さないとと思い、パソコンで職を探しているのだ。
いや、あの五月蝿い都会に慣れてしまったため、この静けさは怖く感じる。
時計の秒針とパソコンが打ち込む音だけが部屋に響く。
この後、10時から近くのパン屋で期間限定品のパンが並ぶらしい。あのパン屋に一度食べに行くと胃袋を掴まれた。もう戻れない。食べてみろ。とぶぞ。
とまあ、まだ1時間先のことなんて気にせずに、職を探そう。
この環境は静かで落ち着く。なんだか、集中してきて…
「え、」
腹の音が鳴り、気が付いた。パソコンの右下の時計を見ると12時。
「な、なぜ?」
壁に掛けてある時計を見ると、9時40分。
まさか、と思いスマホを見ると、12時。
時計の針がズレていたのだ。
私は発狂した。都会なら発狂しないし、なんなら、12時なんて、外食する者が多いので外が騒がしくなってくるからなんとなく分かる。そして、都会より集中できずに、何回もパソコンの右下の時計をみてしまう。
「チクショウ…、田舎!」
私はコートを着てパン屋に自転車をかっ飛ばした。
都会なら、歩きか車で、たった一瞬でも身なりを整えて行くくせに、田舎はそんなこと関係ない。
チリン、と軽快な音を起ててパン屋の扉を開いた。
無かった。限定品は売り切れだった。
すべては、田舎と、時計の針のせい……!
これが、私が壁掛け時計を信用しなくなった理由だ。
「……パン屋の仕事でも就こうかな…」
(くすっと笑える)BadEnd
【溢れる気持ち】
溢れる気持ちを抑えて、
今日も仮面を被る
溢れる気持ちを堪えて、
今日も嘘を付く
溢れる気持ちが言った。
「ねぇ、何がしたいの?」
分からない。
だから、自分が嫌になる。
【Kiss】
うつろひぬ
君が温もり
淡き恋
ともにはまじに
果てむとぞ思ふ
〈解説〉
うつろひぬ→形が失われていく
君が温もり→君の温度
ともにはまじに→ともに混じり合って
果てむとぞ思う→命が尽きるその瞬間まで思う
《君の温度と淡い恋の形が失われていく。ともに命が尽きるその瞬間までともに混じり合いたい》
古文って、なんか、いいですよね。
僕は、すきです。
【1000年先も】※長文注意
夜の温度が僕等を包みこむ。
冬のひんやりとした冷たい空気が時々流れこみ、「寒いね」と少し微笑む君。
けれど、それ以上に僕の心臓は騒がしい。
交際して3カ月。僕の恋心はまだ若い。彼女はもう慣れたかのように僕に接している。そんな彼女に少し負けたような気がするのは気のせいだろうか。
なぜ、このような状況になったのか。それは、三十分前に遡る。
僕は星を観察するのが趣味だ。
今日も屋根の上に登り、望遠鏡を見ていたが、ふと下を見ると彼女が歩いていた。彼女は驚いたが、そっちに行っていいか、と聞かれたのでつい、反射的にうん、と頷いてしまったのだ。
家に入れ、お茶でも出そうかと考えたが彼女は星をみたい、と言ったので今は屋根の上で星を眺めている。
夜風が俺の前髪を攫う。
俺等は望遠鏡で星を見た。やはり、冬の星は綺麗だ。
俺は彼女に星の説明をする。彼女は興味深そうに頷いてくれていて、本当にいい彼女をもったものだな、と思ってしまう。
そして、ふと思ったことを口にした。
「どうして、夜に出歩いてたの?」
少し訝しむ。もしかしたら、他の男がいて……など、我ながら最低なことを考えてしまう。
そんな僕の心を読んだのか、
「別に、誰かに会いに行ってたワケじゃないよ。塾の帰り!」
確かに、あのバックに付いていたキーホルダーはここら辺の塾のマークだった。
「そっか。お疲れ様。でも、寒くしないようにね。あれだったら、僕が迎え行こうか?」
「……ズルいよぉ…、急にそんな優しいこと言ったら、私の心臓が保たない。」
「え!?ご、ごめん…」
「別に…そういうところが君らしいし。」
でも、良かった。俺だけじゃないんだ。まだ、彼女も慣れていない。俺も、まだ慣れていない。
「ゆっくり、一緒に歩いていこう。一緒に、慣れよう。」
「、どうしたの?急に」
「なんか、言いたくなった。」
俺は、彼女の手を強く、優しく握った。
「俺は、守るよ。ずっと、この星のように。10年経っても。100年経っても、1000年経っても。君のこと、大切だと思ってる。」
「……」
彼女は柔らかく笑い、俺の手を握り返した。
「そんなこと言われなくても、わかってるよ。私も、おんなじ気持ち。」
彼女の手はまだ小さくて、冷たくて…でも、確かに存在がそこにあった。
俺等は指と指を絡めながら、遠く遠くの、1000年先の星を見つめていた。
【勿忘草(わすれなぐさ)】
中世の騎士が恋人のために摘もうとして川に落ち、最期に贈った言葉。
それが、勿忘草の花言葉の由来なんだよ。
私、青色と白の勿忘草が好きなんだよね〜。ピンク、ってあんま見ないし。
そうやって、いつか君が教えてくれたよね。
そんな由来ばかり教えられて、花言葉は教えてくれなかった。もったいぶってないで教えろよ、と俺は笑いながら言ったんだっけ。
君は、秘密、って言って笑っていたね。
なんで、自分から命を落としたんだよ。
その日から、俺の世界には色がなくなったんだ。
君が居なくなった日々は、驚くほどつまんなかったからさ、花言葉調べてみたんだよね。
なんだよ。
もっと、早くいえよ。
「もったいぶってないで、教えてくれたら俺はOKしたのに。」
もう、抱いても仕方ない後悔を今日も抱く。