「そんなの、できて当たり前でしょ?」
高校の頃、どうしても欲しいゲームがあって
母親に買ってもらう交渉として
期末で学年一位をとった
結果を報告したら
交渉に進むまでもなく
笑顔を見るまでもなく
バッサリである
せめて、「よくやった」があれば
その後の交渉に進めたものを……
でも頭のどこかで分かってた。
だって、友人から
「テストでいい点をとったら買ってもらうんだ」と聞いた時
なるほど!それが交渉になりえるのか
よし、やろう
と思ったのだから。
だから成り立たないだろうと
分かってた。
母の当たり前は
私の当たり前でもあったのだ
「生駒山上に絶叫マシンならぬ、絶景マシンがあるってCMみたんだけど、
行きたーーーい!」
車を持たない彼女は、俺の車をあてにして駄々をこねる
「お前なあ
七夕だから星を見たいっていって
湾岸まで車出させたの昨夜だったろ」
正直昨夜も深夜に車を飛ばしたわりに
湾岸は思ったより明るくて星はみえなかった為
散々文句を言われたばかりだった
「そもそも昨日星が見えなかったのも
光害のせいだろ」
「光化学スモッグとかってこと?」
「違う、公害じゃなくてひかりがいの方。
街の明かりが夜中まで無駄に光ってるから
星が見えなかったんだろ?
今度はその元凶を見に連れてけってこと?」
本音は生駒山上に行く道の暗峠を通りたくないんだが
結局押しの弱い俺は彼女に
「海と星空と夜景はデートスポットでしょ?男なら四の五の言わずに連れてきなさい!」
と令和の時代にまったくそぐわないわがままに
いつものようにしぶしぶ付き合わされることになる
あーあ、あそこ走り屋多いんだよな
あーうーっ
こう来るって予想してたのに
なぜ星空のお題で
七夕のことを書いたんだ?
私ってやつは……
とりあえず駅の短冊に書いてあった
「あと1両後ろに停車して欲しい」
が、叶いますようにー
空を見上げる
どこかの文豪が妻の言葉を冒頭に
「東京には空がない」
と言っていたが
星空なんてものは見えない
せいぜい一等星がちらほら見えるくらいだ
明日は七夕
織姫と彦星は晴れていれば一年に一度の逢瀬を楽しむ日
もう出発しているだろうか
デートに遅れるのはマナー違反だからな
とはいえ、
天の川を渡ってお互いの距離をゼロにするには14光年かかるから
前日にでても間に合わないんだけど
なんて思いながら
短冊に願いを書く
いつものネコがまた窓際に遊びに来ますように
「この道の先に海があるよ」
そう言って母は林道を進んだ
母さん?
そこは私有地ですよ
バケーションの時期じゃなくて良かった
閑散とした別荘地で
道の先はどこかの会社の保養所に突き当たる
ちょっとした不法侵入だ
「おかしいなぁー
潮の匂いがしたのにっ」
そういって母は
近道という名の回り道をする
夏休み恒例の良き思い出だ
結局海にはたどり着かなかったよね
母さん