狭い部屋が好きだ
昔から視界に入らない部分が怖かった
空間や闇には何かが潜んでいると思ってしまう
だからシャワーで目を瞑るのも
最短にしている
一人暮らしをする時に選んだのは
ワンルームの狭い部屋
これで使わない部屋はない
ほっとした瞬間
カタリとユニットバスから音がした
失恋したくて恋をした
だって先輩が
私の書く歌詞にはリアリティがない
失恋したら、いい詞が書けるって言うから……
誤算だった
どうして、
こんなに辛いものだって
先に教えておいてくれなかったの
うちのじいちゃんは偉い人だった
偉い人だから多分大人の嘘を沢山吐いてきたと思うけど
子どもや孫には
「正直に生きろ」とよく怒った
80歳をこえて体を壊し検査をした
病院からは
胃潰瘍と診断された
じいちゃんにそれを伝えたら
「あのな?正直に生きなさいと教えただろう?
ちゃんと言いなさい」
「……本当は、
癌なんだろう?」
沈痛な面持ちに
言いにくかったが
「本当に
胃潰瘍だよ」
と医師の診断書を見せた
じいちゃんはしばらく食い下がったが
やがて納得した
そして90歳まで元気に生きた
私はそういう
人生に一度くらい遭遇する
真面目なシーンで
ボケをカマしてくるじいちゃんが本当に好きだった
これからも正直に生きてくよ
じいちゃん
「やっぱり白無垢かしら
ちょっと値段ははるけども、
一生に一度だものね」
準備された婚礼衣装みて
白装束が
まるで死地に赴く衣装のように感じた
やっと見合いで決まった結婚相手
とうの立った娘に
親が探してこられる相手は
バツイチのおじさん
別に好きでもない相手
だけど最後の親孝行と思い
承諾した
白無垢にあわせる角隠しは
女が般若にならないようにとの
まじないでもあるらしい
しかし女が般若になるのは
夫が浮気をした時なのでは?
男にとって都合のいいまじないもあったものだ
将来を約束し10年以上半同棲をしていたのに
浮気をされて
あっという間に終わってしまった彼の顔が
頭をよぎった
こうなったら
意地でも幸せになってやる
そうか
白装束は決意の証でもあるのか
長編小説の最後をいつまでたっても読めなかった
十巻で完結のシリーズを完結してからセットで買ったのに
9巻で読むのをやめた
つまらなかったんじゃない
主人公の物語を終わらせたくなかった
シリーズ最後を知らない作品は沢山ある
大好きだったものほど
結末を知らない
私の中で主人公たちはまた
終わりなき旅を続けている