「やっぱり白無垢かしら
ちょっと値段ははるけども、
一生に一度だものね」
準備された婚礼衣装みて
白装束が
まるで死地に赴く衣装のように感じた
やっと見合いで決まった結婚相手
とうの立った娘に
親が探してこられる相手は
バツイチのおじさん
別に好きでもない相手
だけど最後の親孝行と思い
承諾した
白無垢にあわせる角隠しは
女が般若にならないようにとの
まじないでもあるらしい
しかし女が般若になるのは
夫が浮気をした時なのでは?
男にとって都合のいいまじないもあったものだ
将来を約束し10年以上半同棲をしていたのに
浮気をされて
あっという間に終わってしまった彼の顔が
頭をよぎった
こうなったら
意地でも幸せになってやる
そうか
白装束は決意の証でもあるのか
長編小説の最後をいつまでたっても読めなかった
十巻で完結のシリーズを完結してからセットで買ったのに
9巻で読むのをやめた
つまらなかったんじゃない
主人公の物語を終わらせたくなかった
シリーズ最後を知らない作品は沢山ある
大好きだったものほど
結末を知らない
私の中で主人公たちはまた
終わりなき旅を続けている
「なーごめんて」
繰り返す彼の言葉にイライラが増す
「謝ってんのに?」
違うの謝ってほしいんじゃない反省して欲しいんだ
「そのごめんは私が怒ってることに。だよね?」
「当たり前じゃんか?」
「あのね?ごめんで済んだら警察はいらないのよ
ちゃんと謝んなさい!」
しばらくの沈黙の後
「で?」
「うん
……えっと、酔って玄関の鍵閉めずに寝てましたごめんなさい」
「それから?」
「君が読みかけの雑誌を古紙回収に出してしまってごめん」
「うん」
「一番くじで頑張って当ててたアイマスのマグカップ、落としてとって取れちゃったからアロンでくっつけて知らんぷりしてごめんね」
「……うん?」
「ん?」
「それ、知らないんだけど?」
「ま……じで?……」
「…………」
「あの……ごめんね」
「…………」
「…………」
再び沈黙のあとため息混じりに落とし所を提案する
「アンジェリーナのモンブラン」
「デミサイズ?」
「いや、ホールで」
「……はい」
はぁ、今回はこれで許してやるか……
6月になった
制服が夏服になる
僕の気になるあの子は
制服の上からジャージを羽織っていた
次の日
カーディガンを羽織っていた
ある日曜日、本屋で見かけた彼女は
左腕だけアームカバーをしていた
いろいろな憶測がとんだ
リスカの跡があるらしい
刺青が消えないらしい
異世界召喚の聖紋があるらしい
はたまた人面疽……
無口な彼女からは本当のことをまだ聞けていない
(仕事前に書くのやもようよ、私、最後思いつかないやん)
半袖
ぼんやりと靄のかかった空間に
人のような影が並んでいる
人気店の行列だっけ……?
そんな景色同様ぼんやりと
何も考えずに並んでいた
自分の番になってみると
先頭にはやはり
ファミレスにあるようなウェイティングボードがあり
タッチパネルで行き先を指定するようになっていた
とはいえ普通なら禁煙席/喫煙席
大人〇人
カウンター/テーブル席
などタッチするところ
そういう選択はなく
シンプルに
天国/地獄
となっていた
審判の門も随分電子化が進んだものだ
……て
ん?
選べるの?
天国と地獄ってそういうもんだっけ?
恐る恐る天国を押してみると普通に選ぶことが出来た
但し289213番という順番待ちと共に
係の人がおずおずと言う
「あのー、地獄ならすぐ行けるんですけど
だめですか?」
いや、そんな
カウンターか相席でもいいですかーなテンションできく話題か?
話を聞くと、どうやら、人を殺したりしない限り選べるらしい
時代も平和になって
そうそう人殺しもなく、あっても情状酌量などの制度もあって天国が満員なのだとか
その地獄も、現世で聞くような
釜茹でや針の山はなく、
むしろ現代の人間界に近いらしい
「現世の地獄教育が酷いのか誰も選んでくれなくて」
いや、あなたのプレゼンも相当悪い
ならば、と
待ち時間の間手伝うことにした
こう見えて、現世では営業マンだったのだ
まさかの、死後再就職である
天国と地獄