「〇〇――!〇〇―――!」
突然聞こえてきた
私を呼ぶ声。
いつもよりキーが高くて
弱々しいのにしっかり聞こえてくる声。
声のする方へ向かうと
布団に抱きついて
半分微睡みの中に落ちた彼がいた。
彼の額にキスをすると
少し意識が浮上したのか
両手を伸ばしてハグをせがんでくる。
こうして甘えられると
私の母性がくすぐられてくる。
さっきの声も
まるで仔猫が母猫を呼ぶような
甘えと切実さを含んでいた。
『私のことなんて待たずに
寝てしまってもよかったのに』
そう思っても
求められるとやっぱりうれしい。
ふわりと頭を抱え込んで
よしよしと頭を撫でる。
起きているときはクールぶっているのに
こういうところを見せるのは
反則だと思う。
ひと通り撫でくりまわして
また彼がうとうとし始めたのを確認して
私も自分の寝支度を始める。
私が布団に潜り込む頃には
隣で小さな寝息を立てていた。
少しさみしくなって
彼の腕を抱きかかえて
肩に自分の頭を擦り付ける。
じんわり温かい体温が伝わってきて
私も瞼を閉じた。
彼も一緒だったのかな。
眠る間際のさみしさも
相手の温もりで満たされる心も。
『一緒だったら、うれしいなぁ…』
そう思いながら
今日も私は眠りについた。
#眠りにつく前に
“一緒に年取っていこう”
“何歳になっても手繋いでいたい”
いつかあなたは
私にそう言ってくれた。
最期の時まで
ずっと隣にいるんだと
当たり前に考えてくれるあなたが
私はとても愛おしい。
“愛してる”より
ずっと愛が感じられる気がする。
だって
未来でも私と一緒にいるのが当たり前のように
思ってくれるから。
『最期は私が看取ってあげるからね』
そう言うと
彼は嬉しそうに笑ってる。
ずっと先の未来の話。
私達だけの愛情表現。
#愛言葉
引き止めちゃいけないってわかってる。
けど、どうしても行ってほしくなくて
つい彼の服の裾を握りしめてしまった。
口を尖らせて彼を見上げると
嬉しそうにニヤニヤしながら
彼は私を抱きしめてくる。
まだ拗ねたフリをしながら
ぴったりと体がくっつくように抱き締め返すと
満足したような
“もっと”と欲張りになるような
なんとも言えない気持ちになる。
複雑な感情の中で
結局出てきた言葉は最初に言いたかったこと。
それを言ってしまえば
柔らかい感触が唇に3回触れる。
小さなわがままは叶わないけど
幸せな朝のひと時。
こんなわがままなことを言えるのは
この先もきっとあなただけ。
#行かないで
愛してるって叫べば
伝わるわけじゃない
いくら叫んでも
どうせ届かなかった。
あの人を呼んでも
少しも振り向いてくれなかった。
結局何をしても変わらないんだよ。
ただ泣き喚いて忘れるしかないの。
#声が枯れるまで
嫌なことばかり
記憶に残ってるのは悲しいから
そんなことも忘れられるくらい
楽しくて幸せな記憶を積み重ねていきたい。
そう思えるようになった。
#忘れたくても忘れられない