「あーあ。また負けちゃった。」
液晶に映し出される『GAME OVER』の文字に、何度目かも分からない深い深いため息をつく。
「今日調子悪いなぁ……」
一旦休憩、コントローラーをポイっと放り投げ、ガサツにポテトチップスの袋を開けて、口に放り込む。やっぱポテチはコンソメに限るわ。
最近全然外出てないな、そろそろお風呂入んなきゃな、とか思いながら意味も無くテレビをつける。おそらくバラエティ番組かなんかだろう。
『超話題の期待の新星! なんと18歳の現役高校生!その魅力の秘密に迫る!』
アイドルか女優か、興味が一切無いので何かは知らないが、大きく取り上げられていた自分よりもはるかに若く美しい少女が映し出される。
「ふぅん。最近の若者は凄いねぇ。」
私だって注目浴びてみたいし、テレビにも出てみたい。
だけど私に才能や美貌なんて物は生憎1ミリも無いから、ただの戯言でしかないのだけれど。
………ふと、こんなことを思いつく。
「…私以外の人間全員、時間が止まってしまえばいいのになぁ。」
よくあるじゃん。『一つだけ超能力が手に入るなら』みたいな質問。今の私なら、『他人の時間を止める力』って答えるかな。
それでさ、自分以外の人間みーんなの時間を止めて、私だけ動ける世界にしてみる。
あ、勿論時間自体は動いてるから、日にちは進むよ?人間の動きが止まっちゃうだけで。
…それで、一体何をするのかって?
そんなの簡単。
「なんもしないに決まってんじゃん。」
才能ある人は皆努力をしている。努力あってこその才能だ。
でも、私は努力が出来ない。だから何も出来ない、ただの無能で平凡以下な人間。
そこで、時間を止めるのだ。
そうすれば人間皆が、努力しなくなる。
自分も含めた、全員が。
誰も努力しない世界になるのだ。
そんな世界が幸せかは分からない。だが、今の世界が幸せかどうかも、私には分からなかった。
「ま、自分が頑張ろうとしない時点で一生このままだろうけどな。ははっ、我ながら救いよう無いなぁ。」
…皆止まってる世界で、私がもし、努力をしたら追いつけるかな。
「…今この現状で、努力出来ない私が、どーせそんなことできるはずないんだろうなぁ。」
そんなことを思いつつテレビを消し、空になったポテトチップスの袋を、溢れかえりそうなゴミ箱の奥にねじ込んだ。
あー、明日ってゴミの日だっけ……
「私、あの子みたいになりたいの。」
床一面に広がる花弁の絨毯に身をうずめ、小鳥のさえずりのような声で、貴方は囁く。
「どうしてさ。」
そう問えば、
「だって、あの子はお花なの。
いつもキラキラ、皆を笑顔にする。
でもね、私知ってる。
お花はずっと咲いてはいられない。
種を残して、枯れなきゃならない。
そうすれば、もうあの色の鮮やかさは戻ってこないの。
それだけ聴くと、一見哀しく思うでしょ。
でもね、ちがうの。
彼女は地の奥底に、深い深い根を持っていた。
地上からは見えないところに、
しっかり、びっしり、はっきり。
みずみずしい茎と葉と、艶やかな蕾を持ち上げた根は、誰の目にも見えなかった。
美しい花など根がなければ咲いてすら居ないのに、
誰も感謝をしなかった。
努力と忍耐を、隠し通して朽ち果てた。
ああ、なんて美しいの、って思わず声を上げたくなる。そんな生き様。」
そう応えた貴方は笑顔だった。花開くような可憐な笑み、だが、彩やかな頬には雫が伝っていた。
降らされた一滴の雨は花びらを濡らし、木漏れ日から注ぐ日の光を反射して煌めく。
夕暮れに虹を見た様な気分だった。
貴方がごろん、と寝返りをひとつ。
返事をするように花々がゆらり揺れる。
心地よい小春日和の風が肌を撫ぜる。
花の蜜の甘さが鼻をくすぐる。
そよ風に運ばれてきたのは、旅する綿毛に、陽だまりのぬくもり、そして、小さな小さな、貴方の声。