「私、あの子みたいになりたいの。」
床一面に広がる花弁の絨毯に身をうずめ、小鳥のさえずりのような声で、貴方は囁く。
「どうしてさ。」
そう問えば、
「だって、あの子はお花なの。
いつもキラキラ、皆を笑顔にする。
でもね、私知ってる。
お花はずっと咲いてはいられない。
種を残して、枯れなきゃならない。
そうすれば、もうあの色の鮮やかさは戻ってこないの。
それだけ聴くと、一見哀しく思うでしょ。
でもね、ちがうの。
彼女は地の奥底に、深い深い根を持っていた。
地上からは見えないところに、
しっかり、びっしり、はっきり。
みずみずしい茎と葉と、艶やかな蕾を持ち上げた根は、誰の目にも見えなかった。
美しい花など根がなければ咲いてすら居ないのに、
誰も感謝をしなかった。
努力と忍耐を、隠し通して朽ち果てた。
ああ、なんて美しいの、って思わず声を上げたくなる。そんな生き様。」
そう応えた貴方は笑顔だった。花開くような可憐な笑み、だが、彩やかな頬には雫が伝っていた。
降らされた一滴の雨は花びらを濡らし、木漏れ日から注ぐ日の光を反射して煌めく。
夕暮れに虹を見た様な気分だった。
貴方がごろん、と寝返りをひとつ。
返事をするように花々がゆらり揺れる。
心地よい小春日和の風が肌を撫ぜる。
花の蜜の甘さが鼻をくすぐる。
そよ風に運ばれてきたのは、旅する綿毛に、陽だまりのぬくもり、そして、小さな小さな、貴方の声。
9/17/2023, 9:09:57 PM