風に身を任せて、知らない街に着いた。
適当に過ごしてるうちにまた風が吹いて、身に任せていたらまた知らない街に着いた。
風来坊とはよく言ったものだ。
「レジ袋落ちてる」
今日は初恋の日? ハロウィンじゃなくて? 毎日いろんな記念日があるねえ。
話が訊きたいって言われても。おじさん、ものすごく昔のことだから覚えてないな。
ウソだって? おばさんは覚えてるって言った? 校庭で部活の途中で呼び止められ……あああ、そんなこと覚えてなくていいのに!
ウーーーム。
白状します! 好きになった日も告った日も覚えてます!
僕が告ったのは校庭でも部活の途中でもないけどね。
明日で世界が終わるんだって。
彼女は、明日は雨だよと言う時と同じ口調で言った。
だとすると今日は最後の日って事になるんだけど、何か願う事ってある?
いつもの彼女の「もしも」の話。
もし……だったら、何を願う?
そう問われて、僕は彼女が気にいる答えを懸命に探す。
あの美しい笑顔が見られるなら、自分の気持ちなんてどうでもいい。
そうだな。君と過ごせれば。
彼女は目を丸くした。
そんなことでいいの? 最後だよ?
本心を言えというなら。
僕は君にキスしたいし、触れ合いたいし、もっと言うなら肌で君を感じたい。けどそれを言ったら君は笑顔どころか、嫌悪の顔で僕を見るだろう。
君といる時間を僕は願うよ。最後の最後まで一緒にいたい。
ふうん、と彼女は言い、椅子に座ったまま右足を座面に上げて膝を抱いた。
スカートが滑り落ちて、暗い中に下着が……。
目を背けた僕に、不満げな声が降ってきた。
最後の最後まで紳士だね、君は。
はっとして顔を上げる。
椅子の上に立ち上がった彼女は、覚めた目で僕を見ていた。
そう言う人だと判ってたけど。
続けてそう言い、彼女は僕の方へ歩いてきた。目の前で膝をつき、右手を伸ばして僕の頬に振れる。
あ……の……?
わたしが欲しいとは言ってくれないんだね。
腕が首に巻き付いた。
唇が触れる。
えっと思った時にはもう離れていた。
私は何時になったら、君の本心を聞けるのかな。
ドアに手をかけている彼女。
開けさせてはいけない、となぜか強く思う。
けれど、声が出ない。
またね。
世界が白く染まった。
明日で世界が終わるんだって。
カラフルなものと言われて真っ先に思いついたのは、おはじき。
ガラスで出来た平たい小さな粒の中に、一筋スッと色が流れている。
ビー玉もそうだけど、あれは完全な球で隙がない。
少し不揃いな、歪んだ円形だから、可愛らしいのだ。