明日で世界が終わるんだって。
彼女は、明日は雨だよと言う時と同じ口調で言った。
だとすると今日は最後の日って事になるんだけど、何か願う事ってある?
いつもの彼女の「もしも」の話。
もし……だったら、何を願う?
そう問われて、僕は彼女が気にいる答えを懸命に探す。
あの美しい笑顔が見られるなら、自分の気持ちなんてどうでもいい。
そうだな。君と過ごせれば。
彼女は目を丸くした。
そんなことでいいの? 最後だよ?
本心を言えというなら。
僕は君にキスしたいし、触れ合いたいし、もっと言うなら肌で君を感じたい。けどそれを言ったら君は笑顔どころか、嫌悪の顔で僕を見るだろう。
君といる時間を僕は願うよ。最後の最後まで一緒にいたい。
ふうん、と彼女は言い、椅子に座ったまま右足を座面に上げて膝を抱いた。
スカートが滑り落ちて、暗い中に下着が……。
目を背けた僕に、不満げな声が降ってきた。
最後の最後まで紳士だね、君は。
はっとして顔を上げる。
椅子の上に立ち上がった彼女は、覚めた目で僕を見ていた。
そう言う人だと判ってたけど。
続けてそう言い、彼女は僕の方へ歩いてきた。目の前で膝をつき、右手を伸ばして僕の頬に振れる。
あ……の……?
わたしが欲しいとは言ってくれないんだね。
腕が首に巻き付いた。
唇が触れる。
えっと思った時にはもう離れていた。
私は何時になったら、君の本心を聞けるのかな。
ドアに手をかけている彼女。
開けさせてはいけない、となぜか強く思う。
けれど、声が出ない。
またね。
世界が白く染まった。
明日で世界が終わるんだって。
5/6/2023, 11:40:40 AM