「愛してるゲームしよ!」
「阿保?」
「アホじゃない!しかも英語バージョン!」
「常軌を逸した阿保だったか」
「なんでそうなるの!」
寝る少し前にリビングで二人、ドラマを見ていた時に突然始まった。葉瀬(ようせ)は頬を膨らませ、玲人(れいと)に抗議する。相変わらず玲人は冷ややかな目で見ている。
「普通の愛してるゲームじゃ面白くないでしょ?だから英語で伝えるんだよ。ちなみに私は英語が苦手だから調べてから言うね」
「...まぁいいや。なら俺も調べていい?」
「おっ、いいよ~じゃあ五分後にスタートね!」
そう言って二人はスマホとにらめっこを始めた。
「じゃあ始めようか、玲人」
「はいはい」
「まず私からね!」
葉瀬は勝ち誇ったような顔で玲人の顔を見る。頬に触れ、離さぬように目を合わせる。
「I’m mad about you」
「...なんて?」
「I’m mad about you!...その、あなたに首ったけって意味だよ...」
葉瀬は英文を翻訳すると、恥ずかしそうに目を逸らした。
「よ、葉瀬負けてるじゃん」
「玲人だって顔赤いよ~!?」
そうツッコミをすると、ふははっ、と葉瀬は吹き出す。
「意外とヤバイねこれ」
「...じゃあ次俺ね」
耳貸して、と葉瀬を近寄らせる。そして耳元で
「My heart is yours forever」
と囁いた。
「...マイハート......ふぉーえばー?」
「俺の」
「?」
「...俺の心は、永遠に葉瀬のものだよ」
そう伝えると、玲人はそっと葉瀬から離れた。
「......は、葉瀬の負けだね」
「...そう来ると思わなかった」
「予想外って事?珍しいじゃん...」
「うぅ......今日はこの辺にしといてやる...次は覚悟しろよ!!」
そう言って真っ赤な葉瀬は寝室へ逃げていった。
「......逃げるとこ間違えてるでしょ...」
そう呟いて、玲人も寝室へと向かったのであった。
お題 「My Heart」
出演 玲人 葉瀬
「真人(まひと)っていいよな~頭良くて」
「陽太(ひなた)もあんま変わらないだろ」
「でも真人の方が頭良いじゃん」
「それは事実」
「だよね!?...あと真人って目がキリッ!ってしてるじゃん?それもいいな~」
「俺は陽太のパッチリしてる目がいいけど」
「ふふん、俺のパッチリな目は誰にも負けないぜ!!」
「あとそういうポジティブなとこ」
「ん?俺そんなポジティブ?」
「ポジティブ。テストの点が悪くても、アイス食べる元気はある」
「アイスは別でしょ!!」
「あとは元気で明るいとこ。誰でも友達になれるよな」
「俺友達100人作ることが夢だからね!でも真人みたいに、ビシッ!クール!みたいになりた~い」
「その顔でなったら皆びっくりだよ」
「んぇ~俺真人になりたかったな~」
「俺は陽太になりかったよ」
「...なんかの拍子に入れ替わりとかしないかな?」
「それは嫌だ」
「なんで!!」
「陽太のキャラを演じきれる自信がない」
「...俺もかな!!俺らはこのままが一番いいかも!」
「俺もそう思うよ」
お題 「ないものねだり」
出演 陽太 真人
彼女はいつも、俺によそよそしい。
葉瀬(ようせ)は前からの友達だから仲が良いのは知ってる。玲人(れいと)は人柄も良くて、雰囲気も柔らかいから近寄りやすい。
じゃあ俺は?
確かに髪は染めてるし、背は高い自信あるし、どっちかと言えばガサツで、そして感情の凹凸が激しい。
そのせいか彼女は最初、俺を警戒した。
わかってる、第一印象は葉瀬に比べてあんまり良くなさそうだったし。
でも知り合ったからには仲良くなりたいと思うのが俺だから。
彼女の趣味は読書。ゲーム好きの俺とは正反対だ。ちなみに俺は本を読むのが好きじゃない。
でも少しだけ読んでみることにした。
選んだ本が悪かったのか、十数ページで俺の頭はショートした。
今度は彼女が好きだと言ってた人の本を読んでみる。今回はミステリーだったからかスイスイ読めた。でも面白かったけど、感想を聞かれてもどう答えればいいのか分からなかった。
今度はオススメされた本を読んでみる。彼女は軽く要点をまとめてくれて、俺はそこに注意して読んだからか、なんか読めた。まだ感想は難しいけど、いつかは言えるように。
なんでそこまでするのか、って?
前に小説を読んだ事を話したら、驚いてから嬉しそうにしてたから。
その顔が、なんとなく優しい気持ちにさせてくれるから。
彼女の事をもっと知りたいし、俺の事を知ってほしいから。
だから好きじゃなかった本を読み始めた。
なのに。
「なんで他の人に向いちゃったんだよっ...」
俺はベッドでうつ伏せになる。枕が涙で濡れちゃうけど、気に出来ない。
ベッドの隣の棚には、ゲーム機と真新しい本や読み倒された本などが数十冊並べて置いてあった。
お題 「好きじゃないのに」
出演 拓也 秋 葉瀬 玲人
「うわあぁ~雨降ってる...あーぁ......」
雨に罪は無いことは明確だ。しかし、よりによって玲人(れいと)とのデートの日に降ることないじゃないか。今日は町ブラだったのに。
天気予報だって言ってたじゃないか『ところにより雨』って。なんでそれが此処なんだよ。
「玲人傘持ってる?」
「......ごめん、無い」
「だろうと思って持ってきた。折り畳み」
バサッ、と傘を開いて手招きをする。
彼より少し背の高い私が傘を持つことにした。玲人は「俺が持つ」って言ってくれたけど、自分より背の高い人に合わせて傘を持つのは中々筋肉を使う。ましてや彼は私より運動してないため、私が持つのが最適なのだ。
彼は体が弱い。風邪なんか引きやすいから濡れないように傘を傾ける。折角の相合傘なんだから、もう少し寄ってくれてもいいのに。
「......葉瀬(ようせ)、濡れるよ」
「ん、じゃあ玲人もうちょっとこっち寄って」
私は傘を持ち変えて玲人を引き寄せる。玲人は「え」とか「わ」とか短音を発して身を小さくなってしてしまった。
あ~可愛い~...本当にこの人私より年上か?初心すぎる...
「わ...わかったから...!もうちょっと寄るから...!か、肩......恥ずかしい...」
「いいじゃない。楽しいし、このまま行こうよ」
「え!?...お、俺が腕組むから...!それじゃ駄目...!?」
「いいけど......そっちの方が玲人恥ずかしくない?」
「うっ......そ、れでいいから!」
わかった、と言って再び傘を持ち変えると玲人が、きゅ、とくっついてきた。
チラッ、と顔を覗くと真っ赤な顔で「前向け!」と怒られた。
雨の日のデートもいいかなってちょっとだけ思った。
お題 「ところにより雨」
出演 葉瀬 玲人
葉瀬(ようせ)と玲人(れいと)は上を見上げる。その目線の先には観覧車があって、先程拓也(たくや)と秋(あき)を取り敢えず二人きりにした。そして残り組は下で待機していた。
「......いいな」
葉瀬はぽつりと呟く。二人きりにしたはいいものの、そのせいで自分達は観覧車に乗れなかったのだ。
玲人はそれを確かに聞いた。でも自分と二人でいいのか、それが引っ掛かっていた。
「...玲人、乗ろ」
「え?ちょ」
「玲人、観覧車はいいんでしょ?だったら最後に乗っとこうよ。遊園地の醍醐味だよ?」
ほらほら、と葉瀬は手を引く。成すがままに玲人は連れていかれ、ぐいぐいと観覧車に押し込まれた。
スタッフさんに二人で会釈をして、二人を乗せたゴンドラはゆっくり上昇していく。
「おぉー観覧車だ~!」
子供のようにはしゃぐ葉瀬に対し、困惑のまま動かない玲人。
「......あ、ねね。見てみて、さっき乗ったやつ」
葉瀬は窓のそとを指差して玲人に話しかける。
「本当だ。さっき葉瀬がエグい程叫んでたやつ」
「止めろって~忘れろ~」
「あの時、一瞬声が無くなったから本当に吹っ飛ばされたのかと思ったよ」
「ふふっ、疲れて声出すのしんどくなりました」
「ふっ......まぁ生きてて良かったよ」
ゴンドラは更に上昇していく。
「見てみて!夕日!綺麗~」
「綺麗だね~」
「うわ、眩ち」
葉瀬はぎゅっ、と目を瞑る。
「ははっ、光に弱すぎ」
薄目を開けて玲人の方を見る。
夕色に染められた彼の茶髪が、きらきらと光っていた。
葉瀬はその光景にみいられていた。
「...何?」
じっ、と見ていたのに気づいたのか玲人が話しかけてきた。
「......綺麗だなって思って。髪」
「えっ、ぁ、りがと...」
平常心を保ち、素直に伝える。
嬉しかったのか、玲人はその後頻りに髪を触っていた。
夕日はいつまでも輝いていた。
お題 「二人ぼっち」
出演 葉瀬 玲人 拓也 秋