お姫様のように育てられた深窓の令嬢…
「なーんてのは夢な訳で!」
ずごー、っと音を立てて紙パックのオレンジジュースを飲み干す。
「現実なんてのはこんなもんだよねー!!」
「なぁにサキやさぐれちゃってんの」
ゴミ箱に空になったパックを投げ捨てると友人のトモが背中をバシバシと叩いた。
「そんなにフラれたのがショックだった?」
「だってさぁ!アイツ、私と別れて、!あの名家の!!お嬢様と付き合ってんのよ!?!ありえない!!!」
「まー、そんなもんでしょ。」
恋愛経験が豊富であるトモはどこか老成しているようにけらけらと笑う。
「そんなもんって…私にとっては、初めての…彼氏だったのに…」
「あーもー、泣かないの!もっといい人は居るからさ!」
そんなことを公園で話した帰り道。
ふと目の前を飛んでいた蝶が花に止まった。
私はそっと蝶に近づき、その可憐な羽をむしり取った。
「…ざまぁみろ、」
蝶よ花よなんていうけれど、生きていく力が本当にあるのはどちらか。
産まれたらいつか死ぬなんて、決まりきっていたことなのに。
どうして涙が止まらないんだろうか。
じりじりじりじり
しゃくねつのたいようがわがみをこがす
じわじわじわじわ
じめんをすいてきがよごす
じくじくじくじく
あたまがいたむ
じじじじじじじじ
せみがじめんでのたうちまわっている
じとじとじとじと
あせがからだにまとわりつく
じんじんじんじん
あっ
「だぁるまさんが。こぉろんだ。」
私はいつの間にここに居たのか。
日の暮れかかった路地裏に一人、少女があどけない声で笑っている。
「だめだよお兄さん。動かないと暮れちゃうよ。」
少女は華やかな花柄の和服を身にまとっており、草履を履いていた。足元には鞠が数個転がっている。
黒猫は少女に頬を擦り寄せ、こちらをその澄んだ黄色い目で見つめた。
「…動かないとって、」
だるまさんが転んだのルールを言っているのだろうか。確かにそんなルールがあった気もするような。
また少女は顔を伏せ、息を吸い込む。
「だるまさんが、こぉろんだ、」
少女の声に促されるがままに1歩踏み出す。
振り向いた顔には満足気な笑みが浮かべられていた。
「うごいたね、」
止まってるよ、と喉まで出かけた時、後ろの影が動いている事に気がついた。
影のみが意志を持って動くことなんて。これじゃあまるで夢じゃないか。
「うごいたなら、仲間になれるよ、だれかが背に触れるまで、鬼が誰かに代わるまで。」
黒猫がにゃあ、と小さく鳴いた。
冗談じゃないぞ、あの少女の手を取ったならきっと僕は帰れなくなる。
「僕は、早く、帰らないと、」
子供たちの終わりのチャイムが鳴る。
鐘の音が鳴る。
「カラスが鳴くから、」
つまらない事でも話そうか。
ここには君と僕しか居ないんだから。
液晶越しの君との一期一会の出会いだ。
さて、つまらない事と言ったはいいものの…、僕にとってつまらないことが君にとってつまらないとは限らないね?
もし僕がここで「野球」なんて言って君が野球ファンだった日には、スクロールされて僕の命はここで終いだ。
万人にとってつまらないもの…思いつかないなぁ。
あ、そうだ。嫌いな奴の自慢話!これは傑作だ。
でも初めて出会った君と僕だ。自慢もクソもないだろう。そもそも僕は4分前に産まれたわけなのに。
もー…お手上げだ!ずるい手段だけど君が語ってくれないか?ね?一生に一度のお願いさ。
飛びっきりのつまらない話を頼むよ。