白に塗れた青春

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「だぁるまさんが。こぉろんだ。」
私はいつの間にここに居たのか。
日の暮れかかった路地裏に一人、少女があどけない声で笑っている。
「だめだよお兄さん。動かないと暮れちゃうよ。」
少女は華やかな花柄の和服を身にまとっており、草履を履いていた。足元には鞠が数個転がっている。
黒猫は少女に頬を擦り寄せ、こちらをその澄んだ黄色い目で見つめた。
「…動かないとって、」
だるまさんが転んだのルールを言っているのだろうか。確かにそんなルールがあった気もするような。
また少女は顔を伏せ、息を吸い込む。
「だるまさんが、こぉろんだ、」
少女の声に促されるがままに1歩踏み出す。
振り向いた顔には満足気な笑みが浮かべられていた。
「うごいたね、」
止まってるよ、と喉まで出かけた時、後ろの影が動いている事に気がついた。
影のみが意志を持って動くことなんて。これじゃあまるで夢じゃないか。
「うごいたなら、仲間になれるよ、だれかが背に触れるまで、鬼が誰かに代わるまで。」
黒猫がにゃあ、と小さく鳴いた。
冗談じゃないぞ、あの少女の手を取ったならきっと僕は帰れなくなる。
「僕は、早く、帰らないと、」
子供たちの終わりのチャイムが鳴る。
鐘の音が鳴る。
「カラスが鳴くから、」

8/5/2023, 12:39:31 PM