産まれたらいつか死ぬなんて、決まりきっていたことなのに。
どうして涙が止まらないんだろうか。
じりじりじりじり
しゃくねつのたいようがわがみをこがす
じわじわじわじわ
じめんをすいてきがよごす
じくじくじくじく
あたまがいたむ
じじじじじじじじ
せみがじめんでのたうちまわっている
じとじとじとじと
あせがからだにまとわりつく
じんじんじんじん
あっ
「だぁるまさんが。こぉろんだ。」
私はいつの間にここに居たのか。
日の暮れかかった路地裏に一人、少女があどけない声で笑っている。
「だめだよお兄さん。動かないと暮れちゃうよ。」
少女は華やかな花柄の和服を身にまとっており、草履を履いていた。足元には鞠が数個転がっている。
黒猫は少女に頬を擦り寄せ、こちらをその澄んだ黄色い目で見つめた。
「…動かないとって、」
だるまさんが転んだのルールを言っているのだろうか。確かにそんなルールがあった気もするような。
また少女は顔を伏せ、息を吸い込む。
「だるまさんが、こぉろんだ、」
少女の声に促されるがままに1歩踏み出す。
振り向いた顔には満足気な笑みが浮かべられていた。
「うごいたね、」
止まってるよ、と喉まで出かけた時、後ろの影が動いている事に気がついた。
影のみが意志を持って動くことなんて。これじゃあまるで夢じゃないか。
「うごいたなら、仲間になれるよ、だれかが背に触れるまで、鬼が誰かに代わるまで。」
黒猫がにゃあ、と小さく鳴いた。
冗談じゃないぞ、あの少女の手を取ったならきっと僕は帰れなくなる。
「僕は、早く、帰らないと、」
子供たちの終わりのチャイムが鳴る。
鐘の音が鳴る。
「カラスが鳴くから、」
つまらない事でも話そうか。
ここには君と僕しか居ないんだから。
液晶越しの君との一期一会の出会いだ。
さて、つまらない事と言ったはいいものの…、僕にとってつまらないことが君にとってつまらないとは限らないね?
もし僕がここで「野球」なんて言って君が野球ファンだった日には、スクロールされて僕の命はここで終いだ。
万人にとってつまらないもの…思いつかないなぁ。
あ、そうだ。嫌いな奴の自慢話!これは傑作だ。
でも初めて出会った君と僕だ。自慢もクソもないだろう。そもそも僕は4分前に産まれたわけなのに。
もー…お手上げだ!ずるい手段だけど君が語ってくれないか?ね?一生に一度のお願いさ。
飛びっきりのつまらない話を頼むよ。
昔、こんなお話を読んだことがあるよ。
男の子が迷子になるお話だ。どこかノスタルジーな雰囲気で溢れていたんだ。その話を読んだ時、私はまだ9歳、そう小学生だったのだけれど。どこか切なさを覚えたものだったな。
男の子は暗い町の中、電灯のあかりを追いながら迷った末に家に辿り着く。家の中では父が新聞を読み、母は「こんな時間までどこに行ってたの!」と叱りつける。ありふれた幸福のひと家庭。
そして男の子は卓上で冷めきった肉じゃがを食べて涙を流す。え?どうして流したかって?
男の子うぅん、男性は夢を見ていた事を自覚したからだよ。
《大人になった彼が望んだ夢》を未来の技術で叶えた。
SF小説っていうのかな、こういうジャンルを。
「何度も再現しようとしたおふくろの味がそこにはあった。」
彼がそう呟いた所で物語は終わるんだ。
めでたしめでたし…って形容詞が正しいのか私にはよく分からないのだけれど。
あはは、まぁそれだけの話だよ。うん、ちょっと思い出しただけの話なんだ。ところで、ねぇ、この世界ってキミの夢?