#涙の理由
お城のような建物、綺麗なお花、
あの頃憧れたプリンセスのようなドレス。
私の大好きな物に囲まれ、一生に一回の特別な日。
大好きな人が隣にいて、大好きな物に囲まれて
私、世界で1番幸せ!
先に結婚した親友が言ってた。
結婚式の花嫁は世界で1番幸せな人になれるよって。
結婚式に憧れはあったけれど、そこまで思うのって
ちょっと疑ってた。
親友のこと疑ってごめんね。
今なら気持ちがよく分かるよ。
世界で1番幸せな日から数年。
ねえ、どうしてよ。
私のこと好きって言ったじゃない。
一生大切にするって誓い合ったじゃない。
そんな約束守れないなら、
結婚したいなんて言わないでよ。
あの頃の幸せな気持ちが、真っ黒に染まっていく。
私、今何してる…?
私の目から流れるものは何…?
気づいたら目の前に親友がいた。
あれ、ごめんね。無意識に電話かけてたみたい。
ううん、いいよ。
幸せなあなたを巻き込みたくなかったのに。
ううん、大丈夫。私も一緒だから。
え…?
彼女の目から流れる涙は、私の真っ黒になった心を包む優しさだと思っていたのに。
#オアシス
まだ目覚ましの鳴る3時間も前。
仕事に行きたくないのか、
単純に寝苦しさからなのか。
嫌な目覚めだった。
二度寝しようとした時、電柱に止まる2羽の鳩が
何故か目に留まった。
まだ暗さの残る空と少しだけ差し込む太陽の光。
辺りに他の鳥はいない。
人間が簡単には届かない場所で寄り添っている。
まるで2羽だけの世界だ。
仕事で上手くいかなくて、逃げたくて仕方がなかった。
でも、逃げる勇気なんてなかった。
私の様子を知る上司は、
毎日仕事にきて偉いねと褒める。
休んだって何も解決しない。
仕事に行く事しか選択肢になかったから。
本当は休むだけじゃなくて、いなくなりたかった。
電柱に鳩が止まるなんて、日常の光景。
それでも何故だか、涙が出てきた。
私、誰かに寄り添って欲しかったのかな。
頑張った事じゃなくて、辛かった事に。
辞めてもいいよって。
流れる涙を無視して、無理やり目を閉じる。
自分の心が壊れる音に気付かない振りをして、
くまのぬいぐるみに抱きついた。
#一輪の花
"お金もないし、指輪も買えないけれど、
一生大切にするから結婚してほしい…"
一輪のひまわりの花を渡しながらのプロポーズ。
指輪もないし、夜景の見えるレストランでもない。
もっとかっこよくプロポーズしたかったけれど、
芸人を目指す俺にはお金がなかった。
それでもプロポーズをしたのは彼女があと少ししか
生きられないから。
彼女は別れを告げようとしたけれど、大好きだったから彼女と自分の夢を追いかける事を選んだ。
"どんなプロポーズよりも、世界で1番かっこいいよ"
泣きながら言ってくれた彼女のために
夢を叶える事を誓った。
相方と何度もオーディションを受けた。
小さな会場でライブをした。
毎回見に来てくれて、涙を流しながら笑ってくれる。
その笑顔に元気を貰い、どんな事も頑張る事ができた。
ねえ、賞レースで優勝したんだよ。
でっかいひまわりの花束買ったんだ。
憧れてた指輪も買ったよ。
ドラマで見ていいなって言ってたの知ってるよ。
なんで笑ってくれないの。なんで喜んでくれないの。
芸人なんだから彼女の事を笑かさないといけないのに。
涙しか出てこないのは何故だろう。
綺麗な顔で眠る彼女の手にあの時渡せなかった
ひまわりの花束を握らせた。
#時間よ止まれ
好きだったアイドルがいた。
いつから好きだったか、なんで好きになったのか。
理由も覚えていないけれど、ずっと好きだった。
受験で挫けそうになった時。
あの人も頑張ってるからと私の活力になった。
就職試験で緊張した時。
頭の中であの人の歌声を再生して私の安定材となった。
でも今は、アイドル姿を見る事ができない。
活動を休止してしまった。
テレビで見る事はできるけれど、
私が見たいのはあなたが大好きなメンバーと一緒に
笑っている姿だ。
メンバーがいる時にしか見せない、いたずらそうな
愛に溢れている笑顔が大好きだった。
アイドルとしてどんな所にいるファンでも
盛り上げようとするその声が好きだった。
活動を再会する予定はあると答えているけれど、
きっとないんだろうなと思っている。
いつか、ネットで見かけた
彼らは宝箱に閉じ込めたんだという表現が
妙に納得してしまった。
私の青春だった。
大好きだった。
ずっと歌っている姿を見たかった。
宝箱になんか入れないでよ。
時間が止まればいいのに。
でも、あの人がアイドルをお休みした時に
新しいアイドルを見つけた。
今の私の活力は新しいアイドルだ。
あの人がお休みしなければ、
私は出会わなかったかもしれない…。
#梅雨
「はぁ…」
盛大に溜息をつく私を見て、彼がゲラゲラ笑い出す。
「もう、笑わないでよ…」
「ごめんね。でもあまりにも感情漏れていたから…」
そう言ってまた笑い出す。
今日は初めての結婚記念日で出かける予定だったのに、朝から雨が降っている。
「天気予報は晴れだったのに…」
「確かに。まさか土砂降りになるとはね…」
初めてデートした公園へ紫陽花を見に行く予定だった。
付き合って初めての記念日から毎年行っている思い出の
場所だ。
「今まで雨なんて降った事なかったのに…」
「まあまあ、きっといい事あるよ。
お家でお祝いしよっか。
材料とかケーキとか買いに行こうよ」
「…うん」
この日を楽しみに1週間頑張ったから、中々気持ちが
切り替えられない。
梅雨の時期だからしょうがないけれど、
今まで晴れだったから初めての結婚記念日も同じ場所でお祝いしたかったのに…。
私が切り替え苦手だから、彼にも申し訳ない気持ちで
どんどん負の連鎖になっていく。
「切り替えなきゃ…」
無理矢理、笑顔を作ってみる。
せっかくの記念日なのに、可愛くない…。
「わあ…!」
沈んだまま出かける準備をして、玄関を開けると
虹がかかっていた。
「ねえ!見てみて!」
「おお〜!いい事あったね」
「…うん!」
「公園行く?」
「ううん、お家でお祝いがいい」
「いいよ、特別バージョンだね」
「うん!」
彼はいつだって私の心を晴れにしてくれる。
これからきっと雨が多くなるけれど、
2人で楽しんでいこうね。