「哀愁をそそる」
「綺麗だよ、エッチだね」
大根にそう語りかけるのは真っ黒に日焼けした寡黙で不器用な男だ
セクシー大根を作り続けて20年が経つ
実を言うとニュースやネットで取り上げられるセクシー大根はすべて彼の作品だ
彼自身が褒められることはない、それでも世間の評判は彼に届いている
「あんな男と別れちまえよ、あいつにお前はもったいないぜ」
彼の褒め方によって様々なセクシー大根が生まれる、団地妻大根が好評だ
出て行った妻のことも少しは褒めていたら…しかし結婚してすぐに50キロも肥えた妻に言葉は出てこなかったという…
離婚後、イタリア人の甘言を真に受けた彼女が下町のモニカベルッチと呼ばれるまでに変貌しようとは…
仲睦まじく歩く二人を商店街で見かけた事がある、彼女は背中の大きく開いたイブニングドレスを着ておりその美しい姿にまたも言葉は出てこなかったという…
「私にはこの子達がいますから」
そう答えた彼の背中は切り干し大根のように痩せ細っていた
「懐かしく思うこと」
先週、学生時代、部活で共に汗を流した友達から連絡があり、15年振りに再会した
最初は学生時代の懐かしい話で盛り上がっていたが話題は現在の話へ
僕は「外資系で時間に追われながら働いてるよ」と言った
友達は数年前に会社を立ち上げて順調に業績を伸ばしてると答えると急にビジネスマンの顔つきになった
…この流れはマズい
僕は慌てて学生時代の話に戻して事なきを得た
食事のあと、友達の買い物に付き合うことに
友達が立ち寄ったのはペルシャ絨毯の専門店
…嘘だろ?30代半ばでペルシャ絨毯にたどり着くか?
友達は屈託のない笑顔で絨毯を見せてくる
うまく笑えない…もちろん前歯が無いのを隠しながらというのもあるが…ここまで差がつくなんて…
別れ際に友達が言った
「お前が俺の会社に配達に来てたのを見かけてさ、あの頃が急に懐かしく思えてな。これからも荷物頼むからよろしくな!でも勝手に置き配するのは勘弁してくれよ!はははっ」
「ふふふっ…」
僕は笑った、おちょぼ口で
「もう一つの物語」
プルルル…プルルル…
鳴り止まない着信音
日々の生活に疲れた私は会社とは反対の電車に乗り海に来ていた
昨夜、天候が荒れたせいだろう、浜辺には色んな物が流れ着いていた
カギ爪、ドクロの旗、イカダセット
生まれ変われってことか…?
私は大海原に漕ぎ出した
本日は快晴なり
………
財布から別れた妻の写真を取り出す
未練がましい奴め…生まれ変わるんだろう?しっかりしろ
私の上空を旋回していたオウムが肩に止まった
「船長!船長!奥さんデスか?奥さんデスか?」
「船長?ああ…そうだよ、綺麗だろう?」
「………」
「綺麗だろう?」
「や、やさしそう、やさしそう!」
「………」
「船長!ソマリアはあっち!ソマリアはあっち!」
「海賊王か…悪くない。行くか、ヨーソロー!」
「ヨーソロー!ヨーソロー!」
これは後に「海賊にやられた男」と呼ばれる負け犬の物語である
紅茶の香り
ついに捕まってしまった
全部並べたら体育館1つじゃ足りないとベテラン刑事は言った
ここらが潮時か
ベテラン刑事は言った
「腹減っただろう?」
ここで「はい」と答えれば観念したと見なされる
「…体育館に綺麗に並べると約束してくれますか?」
「もちろん、写真も送るよ」
私は今日、下着泥棒を引退する
「私がやりました」
ベテラン刑事は優しくうなずいた
ドアが開く
紅茶の香りが広がっていく
…冗談だろう?
テーブルにはシフォンケーキとダージリン
下着泥棒だぞ…こんな甘ったるいモノ…
………!?
天使のくちどけ!
女の敵はこの時はじめて女の気持ちがわかった気がした
「声が枯れるまで」
彼が私を置いていってしまう
どうしてみんな私を置いていってしまうの?
誰か…誰か彼を助けてっ…!
その時、ジープが土煙をあげ救護所の前で止まった
土煙の中から現れたのは白衣を着た五人の男たち
私は彼らにすがって懇願した
「お願い!彼が死んでしまう!助けて!」
すると無精髭のリーダーらしき男が答えた
「すいません…私達は国境なき肛門科医師団なので…」
私は声が枯れるまで叫んだ
「死ねぇー!…死んでくれぇー!」