「踊りませんか?」
彼が自宅にやって来てから二週間が経つ
チャイムが鳴りドアを開けるとそこに立っていたのは2メートルを越す大きなヤドカリ
事態を飲み込めず呆然と立っているとヤドカリは「宿を貸していただけませんか?」と一言
夫を亡くして三年の月日が「帰ってください」の言葉を飲み込ませた
最初はお互いほとんど喋ることもなかったが一週間もすると少しずつ話すようになって食事をしながら身の上話もするようになった
私は夫が3年前にカニ漁に出て帰ることはなかったという話を
彼は脱皮のため、土に潜っていて目が覚めたらこの大きさだったという話をしてくれた
カニ漁の話をする時、少し躊躇したが気を悪くした感じはなかった
どうやらカニの事を仲間だとは思ってないらしい
「彼らはカニで私はカリなので」
彼が何気なく言った一言で思わず鼻からウドンが出てしまった
それを見た彼は笑った
それからは色んな話をした、テレビの話や映画の話…みんながしてるくだらない話…それでも私にとっては久し振りで楽しくて嬉しくて…泣いた、泣きじゃくった
部屋が静寂に包まれる
彼は言った
「私に合う貝を町工場で作って貰ってます、貝が出来たらこの町を出ます、今までお世話になりま…」
「ヤドカリさん!…借りではなくずっとウチに居てくださってもいいんですよ…」
彼はレコードの針を落として言った
「踊りませんか?」
彼は優しく私を抱き寄せ踊ってくれた
そしてキス
彼のキスは蟹工船のflavorがした
「秋🍁」
医師「アキレス腱断裂ですね」
…事故は秋の運動会で起こった
運動会と言っても会社の運動会だ
会社の運動会は子供の運動会と違う
会社のお偉方に忠誠心を見せる場だ
お偉方に笑って頂けるように面白く転ぶ者、借り物競走でカツラを渡して笑いを取る者など様々だ
真面目が取り柄の私は最後のリレーで存在をアピールするしかない
そして絶好の機会が訪れた
四位で渡されたバトンだが前を走る三人は少し言い方は悪いが、上司のご機嫌とコピーを取ることしか出来ない鈍足で無能な3匹の社畜だ
私は違う、出世レースの真っ只中を走る企業戦士だ
あっという間に3匹との距離を詰める
しかしジャージのゴムが緩んで、ずり落ちてしまいそうだ
それでも何とか最終コーナーにさしかかったその時
ブチン!
足首から何かが弾けるような音がした
私は転げながら若い女性グループに突っ込んだ
悲鳴を上げる女性たち
深いため息を残して立ち去る社長とその取り巻き
パンツまでズリ落ちている…
…アキレスと亀が…
私は出世レースからもコースアウトした
「窓から見える景色」
地球が見えてきた
私たちは歓迎されるだろうか?
窓に映る私の顔…大きな目、小さな鼻と口…そして灰色の肌
地球人がまず思い浮かべる宇宙人の顔、そのものだ
そしてこの宇宙船…子供から大人までみんなが知ってるアダムスキー型のUFO…もう300年以上モデルチェンジしてない
笑われないだろうか?
舐められたら終わりだ
実はもう地球人と科学力の差はほとんどない
抜かれてからでは遅いのだ
星を失った今、地球で生きていくしかない
頭の中でシミュレーションしてみる
コテコテのUFOから降りてくるコテコテの宇宙人
ダメだ…笑われそう
気を強く持たなければ…
こちらの手札は三枚
UFO、STAP細胞、リアルな映像のゲーム機
この三つで驚かせて永住権を勝ち取る
だいじょうぶ、笑顔、笑顔
鏡の前で作るその笑顔は地球人が見たこともない恐ろしいものだった
「夜景」
夜景の見えるレストランに着いた時、プロポーズされると感じた
この時を待っていたはずなのに…
料理を注文するときタッチパネルをぐっと押す彼を見て醒めてしまったのだ
操作ミスで目玉焼きハンバーグが四つ来た事も拍車をかけた
私…この人で良いのかな?
そう思った瞬間、記憶が堰を切ったように溢れ出した
髪を切りすぎて風邪を引く彼
車酔いする彼
交差跳びが出来ない彼…
ふと顔を上げた時、そこには居たのは醜悪なガマガエル
これが蛙化!?
私は悲鳴をあげて逃げ出した
蛙化はある日突然やって来ます
愛する彼が突然カエルになっても貴方は愛せると誓えますか?
「命が燃え尽きるまで」
セームシュルトは楽しそうにずっと喋ってる
周りがつまらなそうにしてることなどお構いなしだ
くそっ…誰がセームシュルトなんて呼んだんだ
さっきまで盛り上がってたコンパが台無しじゃないか
子供の頃、夢中で見てたK-1もセームシュルトが参加するようになってつまらなくなった、それはコンパでも変わらないようだ
「えっ!有名人なの!?」
急に女子たちが色めき立つ
セームシュルトはここぞとばかりにバッグからチャンピオンベルトを取り出す
くそっ…なんで持ってきてんだ
女子たちはすでに落ちてしまったようだ
1時間後、両肩に女子を乗せて、お持ち帰りするセームシュルトを見送ってから何気なく彼のウィキペディアを見た
そこには格闘家生命が燃え尽きるまで戦った男の歴史が刻まれていた