「窓から見える景色」
地球が見えてきた
私たちは歓迎されるだろうか?
窓に映る私の顔…大きな目、小さな鼻と口…そして灰色の肌
地球人がまず思い浮かべる宇宙人の顔、そのものだ
そしてこの宇宙船…子供から大人までみんなが知ってるアダムスキー型のUFO…もう300年以上モデルチェンジしてない
笑われないだろうか?
舐められたら終わりだ
実はもう地球人と科学力の差はほとんどない
抜かれてからでは遅いのだ
星を失った今、地球で生きていくしかない
頭の中でシミュレーションしてみる
コテコテのUFOから降りてくるコテコテの宇宙人
ダメだ…笑われそう
気を強く持たなければ…
こちらの手札は三枚
UFO、STAP細胞、リアルな映像のゲーム機
この三つで驚かせて永住権を勝ち取る
だいじょうぶ、笑顔、笑顔
鏡の前で作るその笑顔は地球人が見たこともない恐ろしいものだった
「夜景」
夜景の見えるレストランに着いた時、プロポーズされると感じた
この時を待っていたはずなのに…
料理を注文するときタッチパネルをぐっと押す彼を見て醒めてしまったのだ
操作ミスで目玉焼きハンバーグが四つ来た事も拍車をかけた
私…この人で良いのかな?
そう思った瞬間、記憶が堰を切ったように溢れ出した
髪を切りすぎて風邪を引く彼
車酔いする彼
交差跳びが出来ない彼…
ふと顔を上げた時、そこには居たのは醜悪なガマガエル
これが蛙化!?
私は悲鳴をあげて逃げ出した
蛙化はある日突然やって来ます
愛する彼が突然カエルになっても貴方は愛せると誓えますか?
「命が燃え尽きるまで」
セームシュルトは楽しそうにずっと喋ってる
周りがつまらなそうにしてることなどお構いなしだ
くそっ…誰がセームシュルトなんて呼んだんだ
さっきまで盛り上がってたコンパが台無しじゃないか
子供の頃、夢中で見てたK-1もセームシュルトが参加するようになってつまらなくなった、それはコンパでも変わらないようだ
「えっ!有名人なの!?」
急に女子たちが色めき立つ
セームシュルトはここぞとばかりにバッグからチャンピオンベルトを取り出す
くそっ…なんで持ってきてんだ
女子たちはすでに落ちてしまったようだ
1時間後、両肩に女子を乗せて、お持ち帰りするセームシュルトを見送ってから何気なく彼のウィキペディアを見た
そこには格闘家生命が燃え尽きるまで戦った男の歴史が刻まれていた
「胸の鼓動」
あとは待つだけだ
午前4時30分…5分後、彼はこの道を通る
「私たちはこれで」業者は空気を察したように消えた
改めて見るとその高さに驚く
24段の巨大跳び箱、通称モンスターボックス
24段…そう、これを飛べば世界新記録である
23段の世界記録保持者は5人
彼がこれで満足してるはずがない
たこ焼き屋など始めてる場合ではないだろ、目の前のモンスターに立ち向かってくれ!
彼がやってきた、当然モンスターに気付く
相対する両雄
彼が笑ったように見えた
そしてゆっくりと助走を始める
私の胸の鼓動も徐々に早まっていく
そして彼が十字路にさしかかったその時
横から飛び出してきた新聞配達のカブが彼を飲み込み闇に消えた
「時を告げる」
ピーー……
「18時22分、ご臨終です」
医師のその一言でみんな一斉に泣き出した
昭和のドラマでよく見た光景だ
遺族がドラマで聞いたことがあるようなセリフを吐く
「あなた、私をおいてかないで!」
「くそっ!もっと俺が早く気付いていたら!」
「おとっつぁん!おとっつぁん!」
おとっつぁん?…娘のやり過ぎたアクションに空気が壊れそうになる
「現代医学の敗北です、私たちにもっと力があれば…」
ベテラン医師がすぐに空気を戻す
92歳の老衰だがそこは察して誰も突っ込まない
ピッ………………ピッ………ピッ
「えっ?」
皆の表情が固まる
妻89歳 弟87歳 娘73歳
医師75歳
気持ちをココカラファインに持っていくにはみんな歳を取り過ぎていた
ピッ………ピ「お父さーん!」
心電図の音をかき消す娘の泣き声
医師はそっとコンセントを引き抜いた