【変わらないものはない】
好きだったよ、たしかに。
でもきっとふたりじゃ幸せにはなれないから。
一緒に見た桜も花火も紅葉もイルミネーションも、いつかは忘れちゃうのかな。
ばいばい、と言ったときの顔が頭から離れない。
ふたりじゃ幸せになれなかったかもしれないけど、あなたが誰かと幸せになるのも納得いかない。
初めてふたりでご飯を食べたお店で、ひとりで座っている。
周りの喧騒が嘘みたいだ。
ねえ、たしかに好きだったよ。
【イルミネーション】
「あ、イルミやってる。もうそんな季節か」
「ほんとだ、きれいだね」
あなたの方が綺麗ですよ、なんてクサい台詞は言えるはずもなく、隣でイルミネーションを見つめるあなたを見守る。瞳には七色が輝いていて、今にも吸い込まれそうだ。
手つないだら怒るかな、怒るだろうな。外じゃ手はつながないっていつも言ってるし。多分恥ずかしいだけなんだろうけど。
半ば諦めの気持ちでポケットから出した手を引っ込める。
その途端に、手がポケットから引きずり出された。
驚いている間にも指が絡められる。
「手、つないでいいんですか」
「……くっついてたら上着に隠れて見えないでしょ」
「大好きじゃん」
「悪いか」
【眠れない】
世間の常識ではないことが、残念ながら俺には常識だった。それだけ。
たったそれだけなのに、眠れないほどに考えてしまって虚しくなる。
さらさらでまっすぐな髪の毛も、少し厚い唇も、伏し目がちで照れたように笑う姿も、いちばん近くで見てきたはずなのに、ずっと届きそうで届かない。
肝心なところで勘が鈍いあなたは、きっと何も知らない。それならそれでいいんだけどね。
だけどその先を都合よく期待してるのも本当だから、どうしようもないな。
そんなくだらない考え事はまどろむ意識の中に溶けていった。
【夢】
「ごめん、もう、無理かも」
そう言った背中が消えていく。手をどれだけ伸ばしても届かない場所へ。
ああ、どこで間違ったんだろう。
意識が柔らかに浮上する。
嫌な夢だった。
冷たい汗を拭って体を起こすと、隣にはさっきの背中がたしかにそこにある。
顔を覗きこんで頬をつつくと長いまつ毛が揺れて栗色の瞳が覗いた。
「なに、」
「かわいかったから」
「何時?」
「もう10時だよ」
猫のように体を伸ばすと、お腹空いちゃった、と笑う。
目尻に寄ったしわが愛おしい。
この幸せを失いたくない。失えない。繋いだこの手を離さないように、ふたりで歩いていこう。