泣かないで なんて言わないで
ただ今は 私の全てを抱きしめていて
桜の花散る狭間 目と目奪われ
陽射し降り注ぐヒマワリ畑 手と手取り合い駆け回った
長くなる影二つ 木枯らしの冷たさが切り裂いても
凍てつく寒夜 長き闇路 駆け出して
互いを篝火に 雪空に堕ちる
想い馳せ爆ぜ巡り会い
冬のはじまり
仄かに残る温もりの残渣を騙って
無数の記憶が散らばる電脳世界
都合の良い貴方だけを集めたら
脳髄で組み立てる 私だけの貴方
記憶をも溶かす甘い微熱が
その笑顔も 言葉も
貴方の全てを真実にしてゆくから
7
「太陽の下で寝たいよう!!!あーーーっはっはっは!!!!!!」
「そのまま寝て干物にでもなっていろ」
のどかな秋晴れの、ある昼下がり。
6
何故このような事になったのか―――
己の手の中にある、冷たく、固くなった"其れ"を握りしめながら俺は膝から床に崩れ落ちた。
手の震えが止まらない。
かつて何よりも柔らかく温かであった"其れ"は、成人男性である俺の身体をも容易に包み込める程の包容力を誇っていた。
それが今やすっかり縮こまり、かつてのふわりとした肌触りはどこへやら、ごわごわとした重い何かへと変貌を遂げている。
俺は何とか立ち上がり、震える手でクローゼットの扉を閉める。
そうして左手に"其れ"を握りしめながら、寝室のドアをゆっくりと開けた―――
リビングでは、死ぬほどしょうもなさそうなバラエティ番組を観ながら乾いた笑いを漏らしている男がごろりと横になっていた。
男はそのまま俺の方へゆっくりと顔を向けると、手に握られている"其れ"を見、「おっ」と声を上げた。
「お前のセーター、洗濯しといたぜ!!!!!」
太陽のような眩しい笑顔。
そこに邪気など存在せぬ。そう、こいつはそういうヤツなのだ。
俺は一度ゆっくりと溜息を吐くと、縮んだカシミヤ100%のセーターを思い切り奴の笑顔に叩きつけた。