6
何故このような事になったのか―――
己の手の中にある、冷たく、固くなった"其れ"を握りしめながら俺は膝から床に崩れ落ちた。
手の震えが止まらない。
かつて何よりも柔らかく温かであった"其れ"は、成人男性である俺の身体をも容易に包み込める程の包容力を誇っていた。
それが今やすっかり縮こまり、かつてのふわりとした肌触りはどこへやら、ごわごわとした重い何かへと変貌を遂げている。
俺は何とか立ち上がり、震える手でクローゼットの扉を閉める。
そうして左手に"其れ"を握りしめながら、寝室のドアをゆっくりと開けた―――
リビングでは、死ぬほどしょうもなさそうなバラエティ番組を観ながら乾いた笑いを漏らしている男がごろりと横になっていた。
男はそのまま俺の方へゆっくりと顔を向けると、手に握られている"其れ"を見、「おっ」と声を上げた。
「お前のセーター、洗濯しといたぜ!!!!!」
太陽のような眩しい笑顔。
そこに邪気など存在せぬ。そう、こいつはそういうヤツなのだ。
俺は一度ゆっくりと溜息を吐くと、縮んだカシミヤ100%のセーターを思い切り奴の笑顔に叩きつけた。
11/24/2024, 12:14:52 PM