『ところにより雨』
「局地的ににわか雨があるでしょう」
いつから使ってるのか分からない、真っ赤なラジオから天気予報が聴こえる。
いつも天気ばかり気にしている母が「傘を持っていけ」と、しつこいため、うるさいなと思う。降水確率は午後から30%くらいのものだ。荷物はなるべく増やしたくない。
「いや、めんどうだし」
「あんた、そういって、この前も雨に濡れて帰ってきたじゃないの」
「傘、すぐ盗まれるし」
「そんな悪い人ばかりじゃないよ」
確かに、窓から見える空は鉛色の雲が重なり合うようにして、せわしなく流れていき、今後、雨が降りそうだ。憂鬱な空だ。雨ならはっきり降ってほしいし、降らないなら、カラッと晴れていてほしい。つまりは、中途半端が一番よくない。
うちには、折りたたみ傘がない。小学生みたいに長い傘を武器に見立てるような遊びももうしない。
「は〜い、もしもし…」
母に電話がかかってきて、長話の予感がしたため、その隙に、傘を持たず、素早く玄関から出ていく。
午後、目の前は見事なザーザー降りだ。空を見上げる。
「やっぱり、傘持ってくれば良かった」
めんどうに感じたのは、傘を持ってでることだったのか、母との会話だったのか…しばらく、母とゆっくり話してないかもしれない。
『特別な存在』
思い出すだけで、手汗をかいてしまう。
姿を見たくない、声を聞きたくない。
人の話は聞かず、人を傷つけるためだけの言葉を発するヤツ。
明日よ、来ないでくれ。
『バカみたい』
お願い、分かって、
もう分かってくれ、、、
『二人ぼっち』
大丈夫、父さんがいるから。
今晩から二人になるね。
久々に長男と夕飯を二人きりで共にする。
作るのは俺。
野菜をたっぷり入れたインスタントラーメン。
まだ、状況が理解できていない、息子。
大丈夫、父さんがずっといるから。
『夢が醒める前に』
憧れの女優とベッドの上で寝ている。
薄く目を開けたその顔が綺麗過ぎて、息を呑む…
その女優Aは、俺のことを甘い声で「B〜くん」と呼ぶ。
「やれやれ」と出た自分の言葉に違和感がある。
Aはこれから仕事あるが、少しでも、俺と長く居たいと、駄々をこねる。しかし、俺は「わがままは言わない約束だろ」と気持ち悪いことを言う。「え〜、でも、B〜くん、いつも忙しくて、なかなか会ってくれないでしょ?」女優のAに対して、俺は何をしている人間だったか…そもそも、ここはどこだ?真っ白な壁に囲まれ、ドアと窓が一つずつ、薄い色の木枠ベッドだけが部屋の真ん中にあるのみだ。窓から見えるのは、静かな海面だけで、今は昼のようだ。
Aは、ふてくされた顔つきで、のそのそと起き上がり、ドアから出ていき、トーストのみが乗った皿を持ってすぐに戻ってくる。「ん!」と、差し出された皿を受け取る。これは何飯だろうか…
Aは「やっぱり、今日はお仕事お休みして、B〜くんと一緒にいる。いいでしょ?」
「でも、Aが行かないと、たくさんの人が困るだろ?それに、仕事に支障を来さないようにするのが、俺たちが一緒に居られるために出された条件だったよね?」「そうだけど〜」
ん?そんなこと誰に言われたんだっけ?
その後も、わちゃわちゃと痴話喧嘩が続くが、「俺が?」という感じで、浮世離れした話が続く…
「ん?」
夢の中なのに、夢と気づいてしまう。夢の世界に意識が入り込めてないタイプの方かーーだったら、おい、まだ、起きるなよ?俺!今のうちに、もっともっとイチャついておくんだ!
「いつまで寝てるの!」
カバッと布団が剥ぎ取られる。仁王立ちで見下ろしているのは、母ちゃん。
涙目で「もう少しだけ、寝かしててくれよ!」
俺は実家住みだ。