こひる

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2/26/2026, 2:38:14 PM

『君は今』

「パカッ」蓋には湿った海苔が張り付いている。
少々米を詰め込み過ぎたようだ。腕時計に目をやり、ちょうど息子も昼休憩くらいだろうと思い、メインの海苔が同じ状況になってはいないか不安になる。

朝明け、ひんやりした空気に挫けそうになりながら、スマホのスヌーズを止める。今度こそはと、妻を起こさないように静かに起き上がる。
スリッパをパタパタ鳴らしながら台所に向かい、天板に両手をつき、大きく息を吸ってからフーッと吐き出す。

フライパンに油を注ぎ温める間、ちくわに包丁を斜めに入れる。ボウルに入れた薄力粉、青のり、水を混ぜ合わせ、素早くちくわを潜らせ油の中に放り込む。
卵に出汁と多めの砂糖を入れて焼き、冷凍食品の鶏の唐揚げを温め、ほうれん草は電子レンジで加熱し味をつける、きんぴらごぼうは昨晩の残りが冷蔵庫に入っている、鰹節はフライパンで炒り醤油をかけておく。

楕円形の弁当箱に、米、鰹節、海苔の順に重ね、その上の片側に、ちくわの磯辺揚げ、卵焼き、鶏の唐揚げ、ほうれん草のお浸し、きんぴらごぼうをきれいに並べていく。最後、たらことマヨネーズを端に添えた。
「よしっ、できた」

昨晩、息子は中空を見つめながら、「学校が楽しくない」と呟いた。そういえば、ここ最近うかない顔をしていた。俺は「無理に行かなくていいんだぞ」と伝えるが、「そういうことじゃない」と息子。
「父さんに何かできることはないか?」
息子はしばらく逡巡した後、「久々に父さんが作るのり弁食べたいかも」
「そうか、分かった。明日は久々に父さんが弁当つくることにしよう」
「ん」
これ以上は父親と話すことはないらしく、早々に自分の部屋に引っ込んでいく。

翌朝、息子は弁当箱を掻っさらうようにし、学校に向かって行ったーー

今、息子はどんな気持ちで弁当を食べているのだろうか。誰かと一緒なのか。一人なのか。父の心配が弁当から伝わってしまっているだろうか。

のり弁、美味しいか?

2/25/2026, 12:29:15 PM

『物憂げな空』

オレンジ色の夕焼けに鉛色の厚い雲が覆い被さった空。

空は何も隔てずに繋がっているはずなのに、どこかあの町のものとは違う。

今朝、生まれ育った町を出て、この町にやってきた。

見送りに来てくれた友人達は騒がしく手を振り、母は静かに涙した。父は来なかった。僕は新幹線の中で何年振りかに泣いた。周りの乗客の目に恥ずかしさは感じなかった。

今まで一人でこんなに遠くまで来たことも、孤独を感じたこともなかった。

初めて見る風景、新たな人間関係、真っさらな作業着

食べるものの味が違う、周りの人間の話す言葉に違和感がある、誰一人僕を知らない、誰一人僕を見つけて笑顔になることはない。

できあがったばかりの小さなコミュニティでは、遠慮の気持ちが入り混じり、安らぎを感じない。今日だけで笑い方を忘れてしまっていないだろうか。

あっという間に過ぎた一日に充実感はなく、感じたことのない疲労感が残る。

バスの窓に見慣れない夕焼け空が広がり、ゆっくり目を閉じる。

早く知っている声が聞きたい。

そして、愛おしい町の今の空の色を教えてほしい。

2/24/2026, 1:12:36 PM

『小さな命』

ニョゴモロンニョがそろそろ出産時期を迎えています。
 
初夏に交尾をしますが、ニョゴモロンニョは、着床遅延という機能を持っていますから、好物であるオッチョコチョイドンブリガエルをたっぷり食べて脂肪を蓄え、体力が十分に温存できていれば、秋ごろに着床します。
自然界ならではの合理的な仕組みなんですね。

この時期のニョゴモロンニョは気が立っていて、危険です。うかつに近づく生物がいようものなら、その鋭い牙と爪で威嚇し、攻撃に転じることもあります。ごく稀に機嫌がいいと結構長い時間、手を振ってきます。

他にも猛獣が彷徨いています。ニョゴモロンニョにとって天敵である、オヒネリメガネハゲキャットやツヨシシッカリシナサイベアーなどです。お互いに警戒していますね。

その後、妊娠したニョゴモロンニョはそのまま冬眠に入ります。しっかり眠り、出産に適した温かい春先を待つのです。

春先ついにーー新たな、小さな小さな命が生まれました。見てください、愛らしい子ニョゴロモンニョです。親ニョゴモロンニョは子ニョゴロモンニョのへその緒を噛み切り、食べてしまいます。さあ、子育ての開始です。

しばらくは親子で行動をともにしますが、親ニョゴモロンニョの子ニョゴロモンニョへの過干渉は常軌を逸しています。子ニョゴロモンニョに全く何もさせません。付き纏い、何かしようとすると子ニョゴロモンニョを止めます。しかしニョゴモロンニョは賢い生体であるため、親ニョゴモロンニョを反面教師にして育ちます。狩も危険の避け方も勝手に覚えていくわけです。
親離れするのは短くて7〜8年かかり、長ければ寿命の3分の2を親子で一緒に過ごします。これは子離れできない親ニョゴモロンニョの本能です。

そして、ニョゴモロンニョは次の世代へ引き継がれていくのですね。

まさに自然界での生命の神秘とはこのことですね。

2/23/2026, 10:27:20 AM

『Love you』

普段、仲の良い両親が珍しく朝っぱらから口喧嘩を始めた。主に母が怒っている様子で、父の仕事がどうとかこうとか。夫婦喧嘩は犬も食わないらしいから、放っておけばいいが、面倒くさくもあるため、いつもより5分早く家を出発することにした。

見慣れた通学路をゆっくりゆっくり、スピードはいつもより遅くなるように意識するが、時間だけはピッタリ合うように歩き進める。

あの角を曲がると、今日もあの子がいるはず。

毎朝、この道ですれ違う名前も知らない女の子。

「おはよう」と言えたことはなく、もちろん言われた事もない。始めは、ぼやけていた感情も、下心以外で挨拶する意味はないだろうと、自分自身の気持ちの分析は既に済ませてある。

僕は彼女の見た目が好きだ。少し癖っ毛で亜麻色の長い髪、甘ったるい印象を与える垂れ下がった目に小さな鼻、丸っこい輪郭、線は細いがとても背が高い。
一目惚れだった。

彼女が目の前に現れると、僕の脳はピリッ電気を発する。いまだに頬は瞬時に熱く硬くなり、心臓がドドドッと早鐘をうつ。彼女が僕の横を通り過ぎるまでの数秒間は永遠のように感じられるし、彼女と一緒に緊張が通り過ぎた後では、一瞬のことであったように、あまりにも物足りなく感じる。

僕はなんて声をかければいいのだろう?
彼女に好きな人がいるのだろうか?
僕なんかに声かけられるのは迷惑かもしれない。
一目惚れとは不純なものなのだろうか、、、
考え込むといつも、感情をドンドン小さく折り畳んでいってしまう。

それから数日後の夜、両親から告げられたのは、県外への引越しだった。父の転勤が急に決まり、それも2週間後にはこの家を出るのだと言う。

真っ先に頭に浮かんだのは、友人との別れの悲しさや新たな転校先での不安や期待ではなく、あの子のことだった。

僕の心の中にポッと火が灯され、それからメラメラと熱い気持ちが胸に広がり燃え上がっていく。この気持ちを伝えずには行けない。しかし、、、

「あっ、あのっ、」やばっ、声の音量間違えたーー

引っ越しの前日、最後の登校で、僕は彼女に初めて朝の挨拶をしたが、告白はしなかった。
分かりきった答えをもらうのではなく、気持ちよい挨拶で終わらせようと決めたからだ。

「おはよう」の言葉に僕の熱い想いを紛らわせながら。

2/22/2026, 12:23:26 PM

『太陽のような』

君が落ち込んでいると、僕は「すごく」落ち込む。

君が泣くと、僕は誰もいない部屋で君を想い一人泣く。

君が笑うと、僕は嬉しくて顔をくしゃくしゃにして笑う。

僕が君の表面上の感情を飛び越えてしまうのは、許してほしい。

太陽のように、明るく、輝きを放ってほしいと、願いを込めてつけた名前。

君は人から距離をとりながら、生き続けてきた。
誰にも理解を得れないで苦しんできた。
その苦しみを代わってあげることができない。

今はまだ未熟な君の辛さの半分は僕が背負っていくから、喜びは独り占めでも君が思う人とでも分かち合えばいい。

君が僕たちを明るく照らし続けてきたことは知っていてほしい。

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