すべての答えが
スマホのなかにある気がしてた
好きなひとからのメッセージも電話も約束も
仕事もお金もチャージも
友だちもそこにいて
知識も明日の天気も今日の歩数もホルモンバランスも
だけど
今日目の前にある景色を
あなたは知らないでしょう
わたしのまつげに溜まる水滴を
ジョウビタキが一瞬キンモクセイに止まったことを
風のにおいを 予報はずれのにわか雨と日の照りを
なんでもない半開きの戸棚や木目の模様を
羽虫が鉛筆の芯のあとのある膝にかすったことを
一瞬お鍋を焦がして部屋のなかにいやなにおいが充満したことを
あなたは知らないの
あなたは知り得ないのよ
女の子は言った
あたしバカのフリしてた
本当はもっと頭よかったの、あたし
だけど好きな子がね、頭のいい女ムカつく、偉そうだって言ってた
次の日から勉強するのやめたの
お父さんがね、小賢しい女は可愛くない、って言ったの
だからそれでいいんだって思った
賢すぎたら嫌われちゃうって思った
ほんとはバカだったのかもね
おかしな理屈を言い出すおじさんたちに
言い負かすこと余裕で出来たけど
あたし黙ってたの ヘラヘラしてたわ
男だったら気にしなくてすんだのかな
男に愛されなくなるかもなんてバカバカしいこと考えなくてすんだのかな
本当にバカになるつもりなんてなかったけど
いつのまにかバカになっちゃったみたい
あたし愛されるのかな
いなくなってしまった
呼んでも
仕方なさそうに応えてくれる
絶対的な愛情の主はいない
いないけどないわけじゃないから
わたしは絶望したりしない
ただ 寂しい
いない気なんてしないのに
どこかにいると思うのに
初めてほんとうに泣いた気がする
その日が来るのが怖かったのに
その日が過ぎてもわかっていないよ
心にずっといる
鼓膜の奥で声が聞こえる
あたりまえにあった背中が見える
わたしはその体温の地続きにいる
好きの一言では追いつけない
きっと言わなくてもぜんぶわかってるよね
愛しかないの だけど愛よりももっとなの
わたし以上にわたしなの
いなくなったりしないよ
あなたがわざとらしく溜息をついたとき
なんて嫌な人なんだろうと思った
あなたの冷たい狼みたいな横顔が
くっきりと脳裏に浮かぶのはなぜだろう
あなたのかけてくれた言葉が
焼き林檎みたいに甘くやわらかいのはなぜだろう
あなたはいまだにわたしに優しい
きっと一生そうだろうと思う
そして時々そっと突き放すのだ
月の下の狼みたいに
だれともつるまず
誰かといても
ほんとうは独りでいるのだ
会いたいな
傷つきたくないな
引っ張りあっている
傷つく可能性があるならその人にしないでと
友はいう
本当にそう思う
だけども会いたい
足るを知るなら
会わない幸せもあるのだ
平穏ないまが幸せだと
幸せだけど
会いたいです
一目だけ
できれば
二目