寂しい
わけもなく寂しくて
これだけ蝉は騒がしいのに
家族はそばにいるのに
鳥は肩にとまって歌うのに
寂しい
バチあたりかな 恐れます
寂しいが背中にいるから
はがしてほしいだけなんです
不幸面したいわけじゃない
なんでもない顔で歩きたい
空想のなか 旅をして
鐘の音は遠くに
まんまるの白い月 夜の海は秘密の生き物のよう
風が鳴いている
寂しい、と涙が流れたら
嗚咽に溶けてわんわん泣いたら
こんなはずじゃなかったと
たくさん悔いをまき散らして
海も闇もヒトの輪郭もわからなくなって
泣いて わけのわからない罵りや
憤りを、怨恨を、やるせなさを
滔々と
耳がぼんやりして
頭の芯があったかくて
空洞で
ぽっかりしていて
寂しさは
どこかにいったみたい
誰にも見せられない自分になったら
やっとほっとしたんだ よ
あの浜辺で
ひとりの女の子がぽつんと座り
海を眺めています
何をするでもなく
波が寄せては返すのを
ながめています
何も起こらない景色
でも小さく何かが起こり続けている
波が砂の上で遊ぶのを
雲がゆったり形を変え東へ流れていくのを
ながめています
声をかける必要はなく
ほうっておけばいいのです
気が済むまで海をながめる自由を
彼女に与えてあげてほしい
一生は一度きりならその自由を
どんなショーウィンドウにも飾れない自由を
蟹がさわさわと歩いて
貝の中から何かがのぞく
濡れた砂場で小さな気配たち
波の音 風の音 耳の中の音 身体の中の音
さっき過ぎた波
もう二度と会えない波
さっきした呼吸
もうあとかたもない昨日
次の波が また
去年のことが愛おしい
あのころどぎまぎしていた私に
もっと信じて大丈夫だよと
声をかけてあげたいぐらい
もっと受け取ればよかったのに
あのひとはたくさんあげたがっていたのに ばかだな
今年のわたしはなんにもなくなっちゃって
ちょっとみすぼらしいから見ないでほしい
キラキラしていたな
よかったな そのときは気が付かなかっただけで
いっぱい幸せだったんだな
きっと今も 今もどこかにキラキラ
見えにくいけど 気づきたいな
あの人はここにいないけど それでも
泣いてばかりも悲しいからね
きっといる きっとある
愛している
私の当たり前を話すと
友だちはちょっと顔を歪めた
あなたは持っている、と
友だちの当たり前の話を聞いた
わたしは心がちくっとした
わたしはそれを持ってない
その当たり前はわたしには贅沢なことだったから
何もかもはきりがないから
ちょっとずつ誤魔化すよ
何も気づいていないふり
鈍感なふり たくさん
それでも一緒にいたかった
ただ仲良くしたかった
持っている、と言われたものだって
偶然そばにあるにすぎないから
わたしのものなどわたしだけだ
ただのあなた、が好きだった
何を持ってなくても
何ができなくてもかまわないから
ただ仲良くしたかったんだよ
笑った顔が見たかったんだよ
すっくと立っていたい
自分に同情を誘うのももう飽きたし
傷はだれしもあるだろう
悲しみは痛かったねと受け止めて
自分の個を恥じてもそのままで
引き受けてものを言いたい
そんなに強くないけど
ずっと杖がいるほどでもないから
一人分支えられる腕の強さがほしい
弱さを蹴飛ばせる脚の力がほしい
言い訳を言いたがる口を叱りたい
嫌われたらきっと生きにくい
媚びてもきっと生きにくい
よろけそうなとき もう一歩前にすかさず踏んで
未来に走り出す力がほしい
ふりきっていけ
ふりきっていけ
心臓の音しかしないぐらい
自分そのものになりたい