星が散った空がよく見える丘に座っている
男と女
二人はたった今出会った
偶々そこに居て
偶々出会っただけだ
が
二人は惹かれ合った
一目見ただけで
惹かれていった
男は女に
女は男に
男は言う
あの空に散っている星の欠片を集めると
願いが叶うらしい
じいちゃんがそう言っていた
女も答えた
じゃあ、二人で集めなきゃ
そんなことが出来るはずないと
理解り切っていたはずなのに
二人なら何でも出来ると思い込んでいた
出会ったばかりのはずなのに
女は続ける
星の欠片が集まったら、流星になるのよ
きっと、そうして私たちの願いが叶うよう
お呪いをするの
流れる間に三回唱えれば
願いは叶うって言うでしょ?
きっとそれと同じなんだよ
男は益々女に惹かれた
そして
だから流れ星は流れていくのか
と呟いた
無数に散らばる星の欠片
集まればどのような形になるのか
想像することすら烏滸がましい程に
この宇宙は広い
二人は今それに気づき
同時に流れ星を待つ
二人は星の欠片を絆いだ
架空の星座を創ってみようなんて言いながら
あれはカエルの形をしているからカエル座で
あれはシャンデリアみたいだからシャンデリア座にしよう
でもそれならオペラ座の方が良いじゃない
なんて言い合いながら
星座を創る
女は男に
益々惹かれた
その横顔は
あまりにも凛々しかった
さっき出会ったばかりの男と女は
星の見える丘で寝そべっている
二人がそんなことをしている間に
流星群が空を覆った
女は目を見開いた
男もその夜空に見惚れた
男は咄嗟に目をつぶり手を合わせた
女もそれに追うように同じことをする
空を流れる星たちは
きっと皆小さな星だったのだろう
星たちは儚く消えていく
そのはずなのに
何故か気持ちは昂るばかり
まさに男と女は
そんな気持ちだった
なんてお願いをしたの
と男は聞くが
それは秘密だよ
と女は答えた
星が散った空がよく見える丘で出会った
男と女
二人の願いは
言うまでもない
今彼等がどれだけ幸せなのか
それを知ることは
あまりにも愚かな気がする
星の欠片が紡いだ二人の愛
それは間違いなく
世界を一瞬照らしていた
その愛が永久に続くことになるのは
此の時思いも依らなかった
遠くから鳴る
それはどこからか
私にはわからぬが
鳴っていることだけは
たしかにわかる
しあわせを運ぶそりにのって
誰かに届けるためだろう
小さな両手をひろげて
幼い少女はこういった
さんたさんがくるのかな
クリスマスなんてとうにすぎた
だが少女の無垢な瞳は
そこにあった
いまも鳴りつづける
それは鳴りつづける
Ring Ring Ring…
正体もわからぬままに
どこか遠くへ行ってしまった
結局何かは知らないが
私たちの目の前に
いつのまにか
天使が舞い降りて
しあわせとやらを
授けるのだった
まずい
あまりにも風が強すぎる
追い風に乗られるままで
どんどん速度が上がっていく
ゆっくり歩くことすらできずに
どんどん速度が上がっていく
まずい
非常にまずい
このまま俺は何処まで飛ばされる
この追い風に何処まで飛ばされるのか
ちょっと近くの八百屋をすっかり通り過ぎて
そのまま最寄り駅も通り過ぎ
住宅街 坂道 山道 地平線の彼方へ
砂漠 湖 滝すら登って
そのままロンドン パリ ベルリンか
バルセロナ ブリュッセル アムステルダム
はたまたニューヨーク ブエノスアイレス メキシコシティ
アマゾンの奥地までも行ってしまうのか
それはまずい
非常にまずい
この追い風はなぜ俺を押すのか
その強さは何処で手に入れたのか
分かるはずもない永遠に
何故なら其処で吹いているだけなのだ追い風は
まずい
そのせいで吹き上がる砂塵
目に砂が入る
そのせいで揺れる木々
飛んできた枝が頭に当たる
そのせいで何より
俺は無駄に速度が上がってしまったのだ
実にまずい
非常にまずい
とにかくまずいのだ
最早止む気配はなし
風に乗られて進むしかない
追い風に吹かれて進むしかない
俺はもともと
追い風を悪く見ようと思ったことはなかった
調子が上がることを追い風に吹かれるというものだったから
だが今
現実で追い風に吹かれると
このように恐ろしい経験をする事になると
思い知った
そういう意味に変えたほうがいいと俺は思う
それにしてもまずい
職場なんかとうに過ぎてしまった
今日は大人しく休んでこのまま吹かれていくしかない
強い追い風にやられて
このまま吹かれていくしかない
それでは皆さん
お達者で
俺は風の子だ
俺は風の子だから
帰る場所がなくなった
まずい
君と一緒に時を過ごすと
早く時計が進む気がする
夢を見ている
そんな感じがする
快楽を感じる今に
密かに僕は涙する
くもひとつないそらは
あおをみせていた
こどもたちのわらいごえが
とおくからきこえてくる
またどうじになきごえも
きこえてくるのは
はたしてそらみみなのか
それともうそではないのか
いきものはじぶんがどこからやってきたのか
わからない
このふゆばれのひに
そんなことをおもっているのは
なぜなのだろう
するととたんこどもたちのこえは
やんでしまった
そのこえのしたほうにいくと
こどもたちのすがたはなかった
ふゆのそらのあおさやゆきのしろとたいしょうてきに
じめんがまっかにそまっていただけだ