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まずい
あまりにも風が強すぎる
追い風に乗られるままで
どんどん速度が上がっていく
ゆっくり歩くことすらできずに
どんどん速度が上がっていく
まずい
非常にまずい
このまま俺は何処まで飛ばされる
この追い風に何処まで飛ばされるのか
ちょっと近くの八百屋をすっかり通り過ぎて
そのまま最寄り駅も通り過ぎ
住宅街 坂道 山道 地平線の彼方へ
砂漠 湖 滝すら登って 
そのままロンドン パリ ベルリンか
バルセロナ ブリュッセル アムステルダム
はたまたニューヨーク ブエノスアイレス メキシコシティ
アマゾンの奥地までも行ってしまうのか
それはまずい
非常にまずい
この追い風はなぜ俺を押すのか
その強さは何処で手に入れたのか
分かるはずもない永遠に
何故なら其処で吹いているだけなのだ追い風は
まずい
そのせいで吹き上がる砂塵
目に砂が入る
そのせいで揺れる木々
飛んできた枝が頭に当たる
そのせいで何より
俺は無駄に速度が上がってしまったのだ
実にまずい
非常にまずい
とにかくまずいのだ
最早止む気配はなし
風に乗られて進むしかない
追い風に吹かれて進むしかない
俺はもともと
追い風を悪く見ようと思ったことはなかった
調子が上がることを追い風に吹かれるというものだったから
だが今
現実で追い風に吹かれると
このように恐ろしい経験をする事になると
思い知った
そういう意味に変えたほうがいいと俺は思う
それにしてもまずい
職場なんかとうに過ぎてしまった
今日は大人しく休んでこのまま吹かれていくしかない
強い追い風にやられて
このまま吹かれていくしかない
それでは皆さん
お達者で
俺は風の子だ
俺は風の子だから
帰る場所がなくなった
まずい

1/7/2025, 1:24:40 PM