2025/09/08
ちょっと、失恋した日の話をしようと思うわ。
あの日は雨が降ってて、妖精たちは家で退屈そうにしていたのよ。
気分転換に、羽を染めに行こうと思って、
滝をくぐって、どうにかお店に行ったの。
でも閉まってた。
だから、仕方ないと思ってその辺をぶらぶらしてたのよ。
そしたらちょうどピーターパンが通り掛かったのよね。
私驚いちゃって、本当にびっくりしたの。
ほら、私って好きな人の前だとちょっと怒りっぽくなっちゃうのね。
だから、ピーターパンにもちょっと怒っちゃったのよ。
ピーターパンは、髪を切ってくれたことも気づい出たし、冗談言って笑わせてくれたんだけど…。
でも、私また怒りっぽくなっちゃって、
その後他の子と仲良く話してるピーターパンに背を向けながら、1人ため息ついてたわ、
それで、そろそろ帰るって言った時。
私近くにいたものだから、ピーターパンの手が私の羽をかすめたんだけど。
全然気づいてなかったわ。
…これってなんだか、失恋ってよりかは、ただ呆れて冷めただけよね。
あの時は辛くて辛くて仕方なかったけど、
今はそうでも無いの。
だって、もう仲間じゃないように気がしてたから。
今までも、これからも。
最初から私は仲間になんてなれてなかったのかもね。
2025/09/07
ウェンディの日記を借りて、
私も日記を書くことにするわ。
ウェンディには、ピーターパンよりずっと素敵な、
かっこいい妖精を見つけたから、気にすることないわ
って、言ってしまったから。
だから、もうピーターパンへの恋文は綴れないわね。
その代わりと言ってはなんだけど、
森の絵描きについて書くことにしたわ。
最近あの人は、私の元へ来ては美しいのなんだと言って、絵を描きたがるのよ。
モリビト達に毎度追い出されては、私たちの妖精の森へ来るの。
今日も雨が降ってて何も見えないのに、私がいたらどんな背景も輝く、なんて言ってまた絵を描くのよ。
おかしな人よね…。
あの人のおかげでピーターパンのことは忘れられそうだけれど。
また、失恋、しなくちゃいいわね。
こういう雨の日は思い出しちゃうわ…。
「さあ、みんな勉強するわよ!」
「えー、やだ〜」
「マイケル!そんな事言わないの。勉強だって、かっこいい男の人になる第一歩なのよ!」
(そうなのか…ふむふむ)
「ピーターパンがとっても真剣だー!ウェンディのこと大好きなんだね!」
「お、おい黙れよ!そんなことねえし…。」
「…」
「ティンクが黙っちゃった。きっと嫉妬してるんだ!」
「黙んなさいよ!あんた!」
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ウェンディはとても優しい子よ。いい子なの。
だから、ピーターパンが好きなのはあの子。
そう決まってる。
私も片思いしていたっていうのに…。
結局言葉にしないと何も伝わらないのね。
橙色と黄色に染る、誰もいない教室。
ーーガラガラッ
誰か入ってきたわ。
森の絵描きね、またモリビトに追い出されたのかしら。
「やっほー、ティンク。また追い出されちゃったよ。それにしても、今日も美しいなぁ君は。」
「本当に女の子を褒めるのが上手なのね、お馬鹿さん。」
「失恋中かい?君に涙は似合わないよ。…そうだ、今日も僕のモデルになってくれ!また美しい絵が描けるよ。」
「えぇ、わかったわ。ありがとう…。」
この人を見てると、ウェンディがいなかった頃のピーターパンを思い出すわ。
もう、忘れなくちゃならないのね。
失恋も、ピーターパンのことも。
「みんな、赤は止まるのよ。車が来て危ないからね。」
「車ってなーに?ウェンディ。」
「車は、大きくて、かっこいい乗り物よ!」
「へえー!乗ってみたーい!」
「今度みんなで作ってみましょうねー」
「ウェンディ、そろそろ眠たいよぉ…。」
「あらそう?じゃあ、そろそろ布団に入って寝ましょうね」
「おやすみ、ウェンディ」
「「おやすみ、ウェンディ」」
「やっと寝たわね、ピーター。…って、ピーターも寝てるわ。」
久しぶりに感じたこの暖かい感じ。
私、大人になってしまうのかしら。
結婚して、子供が出来て。
また、この暖かい感じ、感じれるのかしら。
その時は、大人になったピーターと…。
…って、私ったらピーターは大人にならないんだったわ!
そろそろ寝なくちゃ。
おやすみなさい。
待ちに待った日が来た。
やっと愛しの彼女に会える日だ。
何を話そう?何を聞こう?
ロストキッズ達と毎日布団の中で話した。
そして来たんだ、約束の日。
また、言葉足らずになってしまうかも。
また、何も伝えられないかも。
でも今度はできる。
きっと伝えられる。
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「ウェンディ!久しぶり。やっと、迎えに来れたよ!」
「「ウェンディー!早くネバーランドへ行こう!」」
「はいはい、分かってますよ。マイケル、ジョン!空の飛び方は覚えてるわね?」
「「もちろーん!」」
「ウェンディ、お手をどうぞ?」
「あら、どうもありがとう。本当に、女の子の扱い方がわかってるのね、ふふ。」
「ウェンディ…?」
「?…なーに?ピーター。」
「俺…いや、なんでもない」
「あらそう、早く行きましょ!みんなが待ってるわ!」
また、言えなかったな。
「 」
たった四文字の言葉が。