創作「手を取り合って」
買い物へ出かけた時、店内を歩き疲れた私はベンチで休んでいた。すると、休憩所へ二人の子どもとその母親らしい人が入ってきたのだった。
5歳か6歳ぐらいの子が、私の側にある自販機に走って来て迷い無くジュースを選んで買う。そして、大事そうに抱え母親の元へ走って帰る。私はその様子を見とどけ、お茶を一口飲んだ。
「キャップぐらい自分で開けなさい!いつも自分で開けられるでしょ?」
不意に聞こえた怒気を含んだ女性の声に、私は思わず親子を見た。さっき自販機に来た子が母親にジュースを押し付けている。どうやら蓋が固くて開けられないらしい。
しかし、母親はぐずっている小さい子どもをあやすのに手一杯のようであった。だが、上の子は早くジュースが飲みたいらしく、怒ったようにペットボトルを押し付け続けている。ようやく小さい子が落ち着き、母親は子どもが差し出すペットボトルを手に取った。キャップは難なく開き、母親は子どもへ返そうとした。
だが、子どもは首をふって「どうぞ」と言うだけでペットボトルを受け取らない。
「ああ、なら、お母さんが飲むよ?」
「うん」
「良いの?本当に飲むよ?」
「いいよ、だって前にお母さんもこれ好きって言ってたもん」
母親は虚を突かれたように固まる。子どもはじっと母親を見ていた。
「……なら、始めっからそう言いなさい」
嬉しさ半分驚き半分と言った様子で、母親は子どもから受け取ったジュースを飲む。子どもは照れたように体を揺らしていた。
「ジュース、買って来てくれてありがとうね」
そう言いながら母親は子どもたちと手を取り合って
休憩所を後にしたのだった。
(終)
「優越感、劣等感」
風邪をひくと劣等感に苛まれる。
なんだか生物として負けた感じがする。
細菌への対策はしているはずなのに
それでも風邪はひく。悔しい。
優越感に浸るのは一瞬だと思う。
上には上がいると知った瞬間に一気に冷める。
優越感、劣等感は知らぬ間に感じているぐらいが
私にはちょうどいい。
「これまでずっと」
私がこれまでずっと言葉を飲み込んで来たのは
私の当たり前と誰かの当たり前がぶつかって
傷つけあってしまうことが怖かったから。
何度も悩んで、沢山泣いて、時間が経って
目が覚めると、嫌な物事はもう目の前にはない。
いい加減、溜飲を下げようと私は思った。
今日の夢見が良くなるように
明日の目覚めが良くなるように。
「街の明かり」
賑やかな街の明かりを滅多に目にすることがない。
確かな光源はまばらな街灯と
夜の闇に溶ける月明かりだけ。
「七夕」
素麺が煮える音 風鈴の涼やかな音
身近な人の健康や誰かの合格を記した短冊
願いを抱えた笹は星空へ枝葉を広げる。
何十光年もの宇宙の高みの逢瀬は睦まじく
織姫と彦星の伝説に思いを馳せて。