創作「手を取り合って」
買い物へ出かけた時、店内を歩き疲れた私はベンチで休んでいた。すると、休憩所へ二人の子どもとその母親らしい人が入ってきたのだった。
5歳か6歳ぐらいの子が、私の側にある自販機に走って来て迷い無くジュースを選んで買う。そして、大事そうに抱え母親の元へ走って帰る。私はその様子を見とどけ、お茶を一口飲んだ。
「キャップぐらい自分で開けなさい!いつも自分で開けられるでしょ?」
不意に聞こえた怒気を含んだ女性の声に、私は思わず親子を見た。さっき自販機に来た子が母親にジュースを押し付けている。どうやら蓋が固くて開けられないらしい。
しかし、母親はぐずっている小さい子どもをあやすのに手一杯のようであった。だが、上の子は早くジュースが飲みたいらしく、怒ったようにペットボトルを押し付け続けている。ようやく小さい子が落ち着き、母親は子どもが差し出すペットボトルを手に取った。キャップは難なく開き、母親は子どもへ返そうとした。
だが、子どもは首をふって「どうぞ」と言うだけでペットボトルを受け取らない。
「ああ、なら、お母さんが飲むよ?」
「うん」
「良いの?本当に飲むよ?」
「いいよ、だって前にお母さんもこれ好きって言ってたもん」
母親は虚を突かれたように固まる。子どもはじっと母親を見ていた。
「……なら、始めっからそう言いなさい」
嬉しさ半分驚き半分と言った様子で、母親は子どもから受け取ったジュースを飲む。子どもは照れたように体を揺らしていた。
「ジュース、買って来てくれてありがとうね」
そう言いながら母親は子どもたちと手を取り合って
休憩所を後にしたのだった。
(終)
7/15/2024, 9:53:08 AM