創作「岐路」
少しずつ、少しずつ、脇道にそれて来てしまった。
岐路に建つ木の看板。左側は人の村の名前がかかれ、右側は獣の村の名前がかかれている。ぼくは頭に手をやった。つるりとした角が指先に触れる。今度は腰に手を当てる。尻からはゴムに似た感触の黒い矢印形の尻尾が生えている。だけど、見た目は素朴な人間の男だ。
人でも獣でもないぼくは、どちらに進めば良いのだろうか。見た目に合わせて人の村へ向かうとする。昼間は人間らしく過ごしていても、夜になれば人を喰う。すると、ぼくは追い出されるか、殺される。性質に合わせて獣の村へ向かう場合、これもまた、住民を食糧にしてしまうだろう。
どちらの村も滅ぼせば、ぼくは今度こそ倒されてしまう。看板をにらみ長考する。
「おや、旅人さん。そんなところで困りごとかい」
振り替えると大量の薪を背負った青年が立っていた。そして、彼はしきりに鼻を動かす。
「む、もしや旅人さんは魔人か」
ぼくは狼狽え、はいと答えた。なぜわかったのかたずねると青年はにやりと笑って手を二度叩いた。ぼんっと煙が立ち一匹のたぬきが現れる。
「わたしはね、人に化けて人の村に住んでいる古だぬきだ。この村の伝統料理に惹かれ暮らし続けてもう十二年になる」
青年の姿に戻った古だぬきは薪を背負い直し、人の村への道へ入って行った。
「うまいものが喰いたけりゃ、こっちに来い。でなきゃ他を当たるんだな」
ぼくは唾を飲み込み、古だぬきの後を追った。
(終)
創作「世界の終わりに君と」
世界の終わりに君と共に生き延びるとは限らない。
なぜなら私たちはただの一般人だからだ。世界が終わる原因に巻き込まれてどちらかが先に死ぬかもしれない。それにライフラインもインターネットも交通機関も機能しないならお互いに連絡をとる手段は皆無だ。
さらに、世界が終わる危機を事前に知ることは特殊な立場の人間でない限りほぼあり得ない。すると、私と君は何も知らずに世界が終わることだってあり得る。
そして、もし長期間の危機ならば戦闘力か何かの要員として生き別れになることがあるだろう。あるいは生き物同士の接触の制限があるかもしれない。
だから、必ずしも君と一緒に生き延びられるとは限らない。
……最悪なシナリオでしょ。
世界が終わるほどの状況下で、恋愛や友情を優先させる余裕が私にはないんだ。ごめんね。
「最悪」
・傘を持っていない日に降る大雨
・起きがけのこむら返りに対処できなかった朝
・思わぬ誤字脱字をした日
・止まらないネガティブ思考で眠れない夜
等々、日常の「嫌だな」が積み重なって「最悪だ」との感情が胸の中を渦巻き始める。だけど、呑まれていかないようにペンをとる。ありのままの感情を紙の上に言葉として吐き出す。
そうして、私は「最悪」から逃れている。
「誰にも言えない秘密」
表紙が綺麗だな可愛いなと思って、ろくにあらすじも読まずに手に取った本が、濡れ場満載かグロテスクな描写が多くて内心びっくりしたこと。
本当はBLとか百合とか書きたいこと。
多彩なジャンルが書ける知識と技術が欲しいこと。
誰にも言えない秘密と
わざわざ他人に言わない秘密。
「狭い部屋」
部屋の数だけ物語がある。
それは人生ドラマか夢物語か。
今日も今日とて狭い思考の部屋を
ぐるぐる、ぐるぐる、歩き回る。