谷折ジュゴン

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創作「岐路」

少しずつ、少しずつ、脇道にそれて来てしまった。
岐路に建つ木の看板。左側は人の村の名前がかかれ、右側は獣の村の名前がかかれている。ぼくは頭に手をやった。つるりとした角が指先に触れる。今度は腰に手を当てる。尻からはゴムに似た感触の黒い矢印形の尻尾が生えている。だけど、見た目は素朴な人間の男だ。

人でも獣でもないぼくは、どちらに進めば良いのだろうか。見た目に合わせて人の村へ向かうとする。昼間は人間らしく過ごしていても、夜になれば人を喰う。すると、ぼくは追い出されるか、殺される。性質に合わせて獣の村へ向かう場合、これもまた、住民を食糧にしてしまうだろう。

どちらの村も滅ぼせば、ぼくは今度こそ倒されてしまう。看板をにらみ長考する。

「おや、旅人さん。そんなところで困りごとかい」

振り替えると大量の薪を背負った青年が立っていた。そして、彼はしきりに鼻を動かす。

「む、もしや旅人さんは魔人か」

ぼくは狼狽え、はいと答えた。なぜわかったのかたずねると青年はにやりと笑って手を二度叩いた。ぼんっと煙が立ち一匹のたぬきが現れる。

「わたしはね、人に化けて人の村に住んでいる古だぬきだ。この村の伝統料理に惹かれ暮らし続けてもう十二年になる」

青年の姿に戻った古だぬきは薪を背負い直し、人の村への道へ入って行った。

「うまいものが喰いたけりゃ、こっちに来い。でなきゃ他を当たるんだな」

ぼくは唾を飲み込み、古だぬきの後を追った。
(終)

6/8/2024, 12:04:37 PM