君と出逢って
夫とは恋愛結婚だった
私はどちらかというと
引っ込み思案な性格で
何かしてもらっても
「ごめん…私のためにありがとう」
と言うのが口癖だった
以前夫が仕事帰りにアイスクリームを買ってきた
その時も「ごめん…ありがとう」
そう言った
そんな私に夫は「良いことをしてもらったら、ありがとうを先に言うんだよ」と笑って言う
確かにそう
夫は私とは違って
食事をテーブルに出すと
「ありがとう、いただきます」
と、やはり笑って言う
それから夫の真似をして
「ありがとう」を先に言うようになった
私の性格も明るく前向きに変わった
結婚記念日に、この話を夫にして
「ありがとう、あなたと出逢って良かった」
と、感謝の言葉を伝えたが
夫は「え?そんなことあったっけ?」と、あっけらかんとしている。
何も覚えていなかったのだ( ´゚д゚`)アチャー
耳を澄ますと
私は家族で旅館に泊まりに来ている
家族とおしゃべりしている傍らで
どこからか子供の泣き声が聞こえる
大して気にせず話続けていたのだか
子供の泣き声は止むことがない
もう10分近く泣いてるようだ
長い時間ないてるな
そう考え出したらきりがない
子供は家族と、この旅館に来ているはず
まさか、こんなところで虐待でもしてるのか?
心配になった私は部屋を出て
声のする方へ静かに歩いて行った
エレベーター脇にその泣いてる子供を見つけた
そして、その親らしい男女が呆れ顔で
その子を見ていた
耳を澄ますと
父親らしいその男性は
「お前が悪いんだろう」と子供に言い放ち
母親らしいその女性は
「そうよ、もう泣くのをやめなさい」と言う
それでも子供は泣き止まない
一体何があったのか
良く見てみると、子供の手にはソフトクリームが
握られていた
上の部分は溶けて床に落ちていた
ああ、溶けたからだ
それで泣いていたんだ
よほど悔しかったのだろう
そんなことを考えながら
私はその場を後にした
これからも、ずっと
私はA子、夫と二人暮らし
先日、私の浮気がバレて
ある週末、双方の両親も交えて
今後のことを話し合うことになった
離婚を言い渡されても仕方ない
覚悟を決めて
指定された店に入る
夫の両親は「離婚だ!」と騒ぎたて
私の両親は、「申し訳ありません」と
ひたすら土下座をしていた
ところが、それを見た夫はニッコリ笑って
「父さん、母さん 僕は離婚しないよ」
「A子のことが本当に好きだからね」
私の両親に対しても同じ事を夫は言い
「さ、A子 家に帰ろう」
そう言って私の手を引いて店を出た
車に乗り込み、沈黙のまま家に着く
ソファーに座っても、どこか落ち着かない私に
夫はアルバムを手渡してくる
めくると結婚式の写真
幸せいっぱいの私がいる
料理をしている私、パジャマ姿の私
夫は沢山 写真を撮りためていた
さらにめくると
大学時代の私
キャンパスを友人と歩いてる私
中学、高校時代はバレー部にいて
練習や試合に励んでる私
小学校時代のランドセルを背負っていた私
そこでふとおかしなことに気づいた
なぜ、こんな写真を持っているのか
夫とは4つ歳が離れている
小学校は同じ学校だったと聞いている
でも、こんなにも私のことを知るはずがない…
思わず夫の顔を見る
夫はニッコリ笑って話しだす
「A子、僕はずっと昔からA子を見ていたんだよ。
僕は本当にA子が好きだからね」
続けて言う
「A子の笑顔も困った顔も泣きそうな顔も
全部好きなんだ。だから、こんな事で別れたりしないよ」
私は呆然とした
そして怖くなった
これからも、ずっと
この夫から逃れることはできない…
バカみたい
眼鏡かけてるのを忘れて
あれ?眼鏡どこいった?
って探してた自分
バカみたい
二人ぼっち
私は長女 下には双子の妹がいる
父は幼い頃に亡くなり
母はシングルマザーとなった
生活などの資金面は父母の両家から
援助してもらっていたようだが
それでも母は忙しくしていた
そんな母を見ていたから
なんとなく家事を手伝うようになった
私は地元の会社に就職し
双子の妹達は高校を卒業後
希望していた他県の大学に進学した
その年の暮れ世界的に流行った
ウイルスのせいで妹達が地元に戻れないと
連絡があった
母はとても落ち込んでいたが
私はふと思った
母と二人きりなんて、いつ以来だろう?
多分そうなかったような…
いろいろ考えたけれど
滅多にないことだ
母を独り占めできるだなんて
母と私の二人ぼっち
嬉しくてたまらない