ストック1

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9/30/2025, 12:29:00 PM

旅は続く……というのは困る
俺はもう旅をしたくない
過酷すぎる
勇者になったのだって、血筋のせいだし
元々、そういう器じゃないんだよ
ザコと呼ばれるモンスター相手だって怖いのに、ドラゴンだのキマイラだのと戦えるわけないでしょ
周りからのプレッシャーもひどい
新たな町に行けば勇者様勇者様と声援を受ける
道具や薬、武具の割引サービスだって自主的にやってくれるし、宿も驚きの低価格
そんな中で期待を裏切ったらどうなるか
それが恐ろしすぎて旅をやめることができない
でも、倒すべき敵であるアークデーモンを討ち滅ぼすまで耐えるのは無理だ
自分の心が追い詰められているのを感じる
俺にもっと勇気があったら……
そんな風にすら考えない
なぜなら、俺は勇気があろうとなかろうと、平穏にいち民草として暮らしたいから
誰か、勇者を代わってくれ
もう嫌なんだ
勇者の栄光も、使命を果たしたあとの輝かしい人生も、全部あげるよ
だから俺を勇者の肩書から解放してくれ


ある日、俺の前に魔王が現れた
今は仲間とは別行動中だ
魔王は過去に勇者と争ったが、その後和解した魔族の国の王だ
王と言っても、政治には基本的に関わっていないらしいけど
魔王は俺のネガティブな感情に反応して、ここまで来たという
そういう能力が魔王にはあるのだ
なんのために魔王は俺のもとへ来たのか
どうやら、俺から勇者としての使命を引き継ごうと思ったらしい
けど、勇者は血筋で覚醒する存在
魔王が勇者になれるのか?
疑問に思っていると、魔王は衝撃の事実を告げた
初代勇者と初代魔王は、夫婦だったらしい
和解後に、互いに惹かれて結婚したそうだ
魔族の政治に魔王がかかわらないのは、初代魔王が勇者のもとへ行ったから
普通、基本的に自由な生活の勇者が魔王の元へ行きそうだけど、魔王は王をやめたかったらしい
その後、子供の一人が魔族の国へ行き、王としての権力のない二代目魔王になったと
なので、魔王にも勇者の血が流れており、資格があるとのこと
魔王は俺に、今までよく頑張った、もう怯えながら戦う必要はないと告げた
俺はその心強く優しい言葉に、涙が止まらなかった
ようやく、苦しみから解放される

魔王は俺を勇者でなくすために、ある薬を渡してきた
これは、ある魔族が仮病を使いたい時に開発した、原因不明の重い病(命に別状なし、一ヶ月ほど高い発熱、激しいだるさの症状が続く)にかかる薬だと説明された
仮病のために開発なんて、魔族の情熱は変な方向にすごいな
俺は薬を飲むと、説明の通りの症状が出た
こうなってはもう旅の続行は不可能
魔王はその後、偶然町を訪問した体を装って、新たな勇者となった
ちなみに、魔王は度々国を抜けて旅行しているため、なんの不自然さもない
仮に怪しまれても、病気に倒れた勇者の感情に反応して来たといえば信じてもらえるだろう
こうして、俺は魔王のおかげで勇者の重圧から逃れ、仮病で一ヶ月倒れ伏すことになったのだ
魔王はその一ヶ月でアークデーモンを討ち滅ぼし、世界に平和を取り戻してくれた
俺は勇者として称えられることはなく、静かで平穏な毎日を、ひとりの民として過ごしている
かつての仲間とはたまに会っているし、魔王とも交流したりしているから、勇者になったからといって、悪いことばかりではないと思う
勇者にならなければ、みんなと今みたいな関係を築けなかっただろうから
でも、もうあんな旅はごめんだ
俺は今の毎日を大切にしたい
そう心から思う

9/29/2025, 10:55:31 AM

どうやら僕はモノクロの世界に迷い込んでしまったらしい
周囲のすべてに色はなく、僕自身の姿もモノクロになっている
なんとも不思議な光景だ
昔のモノクロ映像や写真なんかは見たことがあるが、自分がその中に入ったかのような体験をできるなど驚きだ
だが、妙に落ち着く感覚がある
僕はこのモノクロの世界が気に入っていた
見えづらいことがあっても、すぐに慣れていく
人の適応能力というのはすごいものだな

この世界でしばらく過ごしたが、モノクロというのはとても静かだと思う
音の話ではなく、目に映る景色がうるさくないのだ
そう感じて初めて気付く
僕はどうやら、カラフルというものに疲れていたのだな、と
こんなに心穏やかな気分で生活したのはいつぐらいぶりだろう
もしかしたら、これまでの人生の中で一番穏やかなのかもしれない
気分はとても爽やかで、心地いい

モノクロ生活を満喫していたある日、ふと、心の中でウズウズした感情が芽生えるのを感じた
僕はなんとなく、その正体がわかっていた
このモノクロの世界へ迷い込んだのは、疲れていた僕の心を誰かがリフレッシュさせてくれようとしたからなのだと思う
その誰かが誰なのかは知りようもないが
ただ、僕の中で芽生えた感情は、もう休息は満足するまでとれたと言っている
色鮮やかな景色へ帰りたい
僕の感情はカラフルな世界を望んでいた

僕はモノクロの世界というリゾート地で休みをとっていただけ
いくらいい場所でも、毎日いたら飽きてくる
ここは僕の旅行先であって、安住の地ではないということだ
休暇を満喫した僕は、思い残すことなく、元のカラフルな世界へと帰った
叶うなら、疲れた時はまた訪れたい
あのモノクロの世界に

9/28/2025, 10:38:23 AM

生物の命
星の寿命
そして宇宙まで
あらゆるものに永遠なんて、ないけれど
絶対に永遠は存在しないのか?
永遠がないとしたら、終わりの後はどうなるのだろう?
すべての始まりは存在するのだろうか?
存在するとして、その前はなんだったのか?
始まりの前にも、終わりの後にも、何もないのだとしたら、いま存在している世界はなんなのだろう?
有限とはいったい……
永遠とはいったい……

とかそういうことを考え始めると、頭がおかしくなりそうなのでやめました
いやぁ本当に、知識もないのに素人がそんなことを考えちゃダメですよ
思った以上にストレスがたまりますから、こういうのは
考えてもわかるわけないし
そんなわかりもしない、答えも出ない難しい話を考えるより、今日の夕飯をカレーにするかパスタにするか考えたほうがよっぽどタメになるでしょ
それか、対戦ゲームの戦略を考えるとかね
永遠がないんなら、今を思いっきり楽しむのがお得です
考える意味のない話でストレスをためるなんて、時間的にも心にとっても、もったいないことこの上ないですから
もっと自分が幸せになることができるといいと思います
あんな難しい問題は専門家に取り組んでもらうのがいいですよ
専門家ですら頭を抱えるような話題は無視して今日は……そうですね
前から気になっていたカプセルトイでも回しに行きますか
ついでにクレープ屋へ久々に、お気に入りのクレープを食べに行くのも最高じゃないですか?

9/27/2025, 10:49:40 AM

涙の理由?
聞きたいのかい?
聞いたところで面白くもなんともないよ?
それでもよければ話そう
僕がなぜ涙を流すのか

先日、僕の叔母の旦那さんのお母さんが、山へ行ってきたらしいんだ
その山はその人のうちの所有する山で、山の幸を採るために行ったんだね
いつもより美味しそうに育っていたから、喜びながら採ったんだって
後日、叔母が僕のうちへ、もらった山の幸をおすそ分けしに来てくれたんだ
家族で美味しくいただいたよ
ほんと、美味しかった
でも、その中にしいたけがあってね
しいたけだけならよかったんだけど、しいたけに似た毒キノコが混ざってたみたいで
まぁ命に関わる毒じゃないんだ
だけど、ここまで言えばわかるよね
そのキノコ、食べるとしばらく涙が止まらなくなる症状が出るキノコだったわけだよ
食べたのは昨日のことさ
今日になっても止まらない
笑い茸ならぬ泣き茸
そんな名前じゃないんだけどね

というわけで、肉体的な反応で涙を垂れ流しているのであって、精神的なダメージとかじゃないし、命に別状もないから、心配しなくても大丈夫
今日は会う知り合いみんなに心配されて、申し訳ないくらいだ
致命の毒キノコじゃなかっただけ、全然マシさ

9/26/2025, 11:23:05 AM

コーヒーが冷めないうちにさっさと終わらせたいもんだ
仕事終わりのホットな缶コーヒーはうまい
冷めたら台無しになってしまう
それに、先に仕事を終えた後輩に金を渡し、缶コーヒーを買ってもらって待機させているから、長く待たせるのも悪い
目の前のこの気持ち悪い怪物が、人前に出て暴れる前に討伐するのが俺の仕事だ
普段は異空間にいるんだが、何かの加減でこちら側の世界に現れる
そして人を見ると襲いかかるんだ
怪物は特殊な物質を含む武器しか効かない
俺は怪物の肉体を破壊するための刀を構え、相手の動きを待つ
こちらから突撃するよりも、相手の攻撃を待ち、向かってきたら動きを見切って切り裂く
それが一番いい倒し方だ
こちらを視認した怪物がうねうねした気持ちの悪い動きで走り出し、鋭い爪の生えた手を振り下ろそうとしたところで、俺は腕を切り落とす
そしてそのまま体を回転させ、胴体を斜めに両断した
絶命した怪物はそのまま黒いもやになって消えていく
攻撃に積極的な怪物でよかった
慎重なやつだと無駄に時間がかかるからな
一仕事終えた俺は後輩のもとへ向かう
ホットな缶コーヒーで一息つくために
労いの言葉をかけてくれる後輩から、お楽しみの缶コーヒーを受け取ると……その缶はキンキンに冷えていた
アイスコーヒーじゃねえか!
後輩によると、今は夏だからアイスがいいと思ったとのこと
違うんだ
季節なんて関係ない
俺はホットコーヒーで喉を軽く焼くのが好きなんだ
アイスコーヒーは好みじゃないんだ
ちゃんと言わなかった俺が悪いが、このがっかり感はキツい
仕事のあとの楽しみなのに
気持ちよく仕事を終えるはずだった俺のテンションは、ダダ下がりになるのだった……

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