私には自分の記憶が無い
記憶を失ったわけではない
そもそも、過去がない
いや、もしかしたら死んだ誰かが転生でもしたのかも知れないが、前世の記憶が失われたことを、過去の記憶を失くしたとは言わないだろう
私は、生きるのに必要な知識と、別人の記憶とともに、造られた肉体に魂を宿された
そういう存在
私を生み出した……違うか
造り上げたのは、娘を亡くした魔道士だった
私の姿は、その娘と全く同じ
蘇らせることができないと悟った彼は、私を娘の代わりとして誕生させた
けど、私の頭に入る記憶の中の彼女は、私とは全く違う性格だ
どうやら彼女はとても明るく、ハキハキした性格の人だったようで、私とは正反対
しゃべり方だって違う
私はどちらかというと、物静かなほうなのではないかと思う
彼はそれで満足できるのか
同じ姿をして、彼女の記憶が入っているとはいえ、私は別人
娘代わりになれるとは思えない
私が自分の性格を無視して、彼女のような態度で生活できる自信もない
私と魔道士……父との生活が始まった
父は私によくしてくれたし、私も私なりに娘として接した
別に頑張ったわけではなく、自然にそういうふうに接することができている
でも、父はどこか寂しそうだ
私のことを大切に思っているのは伝わってくる
ただ、だからといって傷が癒えるわけではないのだろう
私の中の、彼女の記憶の父はとても楽しそうで、私はいつしか、その頃の父を取り戻してあげたくなっていた
色々な魔道書を読み込んで、なにかいい方法はないかと探し続けた
そして、私がたどり着いた方法は……
私の自我を、記憶の中の彼女と同一化させることだった
私の性格と記憶を、彼女の性格と記憶で上書きするのだ
蘇らせられないのなら、私自身が彼女になればいい
見た目は同じなのだから、私は彼女になれるはず
今までの記憶は消えてしまうけど
この性格だって、変わってしまうけど
私は、私が会ったことのない父の姿を取り戻したかった
魔法陣を描いて、魔法発動の準備をする
緊張する
死ぬわけではないけど、自分が別のものに変わるのは怖い
けど、決心はついていた
魔法を発動する
……発動しなかった
私のしようとしていたことに気がついた父が、部屋に来て魔法陣を破壊たのだ
悲しそうな、でもホッとした顔の父を見て理解した
今の私が失われたら、父はまた悲しむことになる
こんなことをする必要はなかった
父にとって、私は彼女と同じくらい大切なのだ
私はただ、私でいればよかった
代わりになる必要はないんだ
二度と、こんなことはしないと父に約束した
父は心底安心した表情をして、私を抱きしめる
私は、私として、私自身の記憶を大切にして生きていこう
そう、誓った
私は彼女の代わりではなく、私にとっても、父にとっても、この世で唯一の私なのだから
アニメやゲームのグッズというもの、ひとたび買い逃がせばもう二度と手に入らない、という場合も多い
仮に売られていたとしても、プレミア価格の中古で、高額な可能性がある
なので、本当に欲しいものは後悔のないよう、購入してしまうのが理想的だ
だが世の中というのはそうそう簡単ではなく、喉から手が出るほど欲しくても、逃せばもう二度と手に入らないとしても、懐事情から諦めざるを得ないことなど当たり前にある
一期一会のグッズを買うかどうかの取捨選択は、非常に悩ましい問題だ
欲しい気持ちがいくら強くても、生活あっての趣味
買うために諦められる何かがあるならいいが、犠牲にしてはいけないものまで犠牲にして買うのでは意味がない
一方で優先順位を誤って、買えたはずのものに対し、買わないという判断を下せばいつまでも悔いが残る
なので買う判断も、買わない判断も、慎重に、よく考えて下さなければならない
それは本当に優先すべきものか?
それは本当に諦めていいものか?
もう二度と手に入らないかもしれないそれに、我々は迷わされ、悩まされ、しかしその先に楽しさや満足感を見出すのだ
空は曇りだ
そのせいで昼間だというのに暗い
僕の気分は落ち込んでいるというのに、空まで曇ることはないじゃないか
余計に心が重くなる
もう、いっそのこと雨でも降ってくれないか
そうすれば、僕は傘もささずに雨に打たれ、気持ちのいい冷たさの中で心を洗うのに
だけど、空は曇りのままで、雨は降りそうで降らない
周りを行き交う人達は、雨が降るのか気になっている様子だ
きっと降らないでくれと思っていることだろう
気持ちはわかる
僕だって、何でもない日なら同じことを思うだろう
傘をさして、濡れないように気をつけながら歩くのは面倒だ
ただ、今の僕は心から雨が降ってほしいと願っている
周りの人達には悪いけど
雨よ降れと、心の中で雨乞いをする
雨の中に自分をさらせば、後ろ向きな感情も流されて、前向きな気持ちが芽吹くんじゃないかと思う
それは、泣いてすっきりするのと同じようなことかもしれない
だから空よ、泣かない僕の代わりに、涙を流してくれ
それで僕も、自分が泣いたあとみたいに、雨の中で心は晴れ渡るだろうから
「bye bye...」
うーん、いい曲だ
恋人同士の別れを歌った切ないラブソング……に見せかけた、別れた後の二人がお互いの悪口をものすごい勢いで喚き散らす、醜悪極まりない内容
クズみたいな人間の視点で書かれた歌詞が多い、「愚行倶楽部」の今度の新曲も最高に酷い
最初は静かで悲しげな始まりで、落ち込んでいる歌詞かな?と思いきや、よく聞くと、暗い調子で別れた喜びを歌ってる
そのあとは、ハイテンションで罵詈雑言
まるで嫁いびりをする悪い姑のようにどうでもいいことを指摘しまくる
不満点をこれでもかとまくしたてる歌詞
そして、サビで子供じみた罵倒が始まるのだ
2番も、最初の悲しげな部分はないが、同じような流れの内容
なお、最初の悲しげパートは二人が交互に歌って、その後の1番が元カレ視点、2番が元カノ視点になっている
そして最後のパートで二人とも新たな恋人を得るのだが、その性格の悪さからひと月で別れを切り出され、絶望するのだ
最後に怨嗟の念を歌いながら幕を閉じる
この「bye bye...」は「愚行倶楽部」の歴代の曲の中でもトップクラスだと思う
よくここまで酷い元カップルを考えたものだ
しかも、内容が絶妙に現実味があってとてもいい
今回の曲も楽しませてもらった
本当に「愚行倶楽部」のファンでよかった
今度のライブも楽しみだ
君と見た景色を探し続けている
一緒に何度も見た、大きな絵に描かれていた景色
僕の前からいなくなってしまった君は、その景色のある場所にいるはずだから
君とは長い間会っていないけれど、そこにいることだけはわかる
再会したら、何を話そう
そもそも君は、僕と話しをしてくれるのだろうか?
僕のことなんか、忘れてしまったかな
だとしたら、残念だけどそれまでなんだろう
でも、覚えていてくれたら……
そして、僕のことをまだ思ってくれているのなら、僕は笑顔で君のもとへ駆けていこう
どちらにしても僕は行かなければならない
行ったことのない、けど、思い出の詰まった、君と見た景色のあるあの場所へ
そして、そこにいるはずの、君のもとへ