ー鋭い眼差しー
それは、鋭い眼差しで私を捕える。
寝ても覚めても、それはいつも私の近くから離れない。
『孤独だ。』
不意に、目が覚める。
時計の針は4時を指している。
カーテンの隙間から、街灯の灯りが差し込んでいる。
心拍数が高くなる。
『なんで…、いつも君はこっちを見るの?』
まるで捨てられている猫が捕食しようとしているような、切なくも強い眼差しだ。
それは、私に少しずつ近づいてくる。
咄嗟に、その存在と私を一度に抱きしめてしまった。
そして、抱きしめた腕をゆっくりと緩める。
ふと、それは静かに佇み、私の側に留まって、こちらを見つめている。
「認めてほしくて、寂しくて、ずっと惨めだった。」と、それは静かに語る。
今にも崩れ落ちそうなその孤独は、私の心の中に優しく溶け込んでいく。
『今までごめんね。』
それは、穏やかな眼差しで私を見つめ返す。
『明日は、一緒に出かけようか。』
私はそう言い、瞳を閉じる。
きっと明日も明後日も、孤独と私は手を取りながら歩いてゆくんだろう。
ー高く高くー
私の祖父は天高く、旅立った。
嫌な虫の知らせのあったあの日。
とても酷い災害の年だった。
今、どこにいるんだろうと、ふと頭をよぎる。
生きてる側の勝手な妄想だけど、
おじいちゃんは空の上で笑ってるだろうか。
私が天高く飛び立つには、あまりにも早すぎる。
どうか、
『最高の土産話を持ってくから、待っててね。』
ー子供のようにー
いつからか、私は忘れてしまった。
子供のように無邪気でいることを。
あんなにはしゃぐことは、きっと二度とない。
それでも、自分の内側にある子供心を、時々ほぐしてあげる。
歳を重ねて、いろんな時代の自分を連ねていく。
時には辛く、楽しくもある。
そうやっていろんな時代の自分が重なり合っていくけれど、大切に、丁寧に扱いたい。
いつだって、子供の私と大人の私は、並走して生きていく。
ー放課後ー
今となっては、あまりにも遠すぎて美しい日々だった。
夕暮れの中に、私と君が消えてゆく。
いつのまにか、君と私は別の道を歩んでいたね。
薄れゆく記憶の中で、あの頃の私たちが笑っている。
もう行かなくちゃ。
『バイバイ、ずっと元気でね。』
ーカーテンー
ああ、保健室の布団は柔らかい。
横隣のカーテンを開くと、もうひとつのベッドには寝息を立てて横たわる君。
まつ毛が、まるで羽のように瞼を撫でている。
廊下には、パタパタと走る音や、誰かの笑い声が響いている。
突然、長いまつ毛が揺れて、君との視線がぶつかり合う。
君はまた目を瞑り、こちらを向いたまま微笑んでいる。
愛おしさが込み上げて、不覚にも胸がきゅっとする。
カーテンの向こうには、忙しない世界が広がっているけれど、今だけは二人だけの小さな世界。
永遠にこの時間が続くことを願いながら、再び二人は眠りについた。