ー高く高くー
私の祖父は天高く、旅立った。
嫌な虫の知らせのあったあの日。
とても酷い災害の年だった。
今、どこにいるんだろうと、ふと頭をよぎる。
生きてる側の勝手な妄想だけど、
おじいちゃんは空の上で笑ってるだろうか。
私が天高く飛び立つには、あまりにも早すぎる。
どうか、
最高の土産話を持ってくから、待っていて。
ー子供のようにー
揺れる電車の中で、母親と子供が笑い合っている。
その無邪気さに、思わずハッとした。
いつからだろう。
私は、子供のように無邪気でいることを忘れてしまったように思う。
昔のように、もうはしゃぐことはないのだろうと、寂しく思う。
私は思わず、鞄につけていた可愛らしいテディベアを撫でた。
なんだか、大きなぬいぐるみが欲しい。
ふと、心が動き、通販サイトで気になっていたぬいぐるみを購入した。
ぬいぐるみが届く日を心待ちにしながら、賑やかな電車を軽やかに降りた。
ー放課後ー
今となっては、あまりにも遠く、美しい日々だった。
喧嘩もよくしたし、仲違いした時もある。
それでも、お互いの存在が励ましだった。
二人の制服のボタンが、夕日に反射して光っている。
夕暮れの中に、私と君が消えてゆく。
そして、いつのまにか、
私と君は別々の道を歩んでいた。
ある時を境に、会うことができなくなってしまった。
けれども、
あの頃の私たちが今も笑っている。
今も、夕日を見つめ、君を想う。
ーカーテンー
ああ、保健室の布団は柔らかい。
横隣のカーテンを開くと、もうひとつのベッドには寝息を立てて横たわる君。
まつ毛が、まるで羽のように瞼を撫でている。
廊下には、パタパタと走る音や、誰かの笑い声が響いている。
突然、長いまつ毛が揺れて、君との視線がぶつかり合う。
君はまた目を瞑り、こちらを向いたまま微笑んでいる。
愛おしさが込み上げて、不覚にも胸がきゅっとする。
カーテンの向こうには、忙しない世界が広がっているけれど、今だけは二人だけの小さな世界。
永遠にこの時間が続くことを願いながら、再び二人は眠りについた。
【涙の理由】
私は、空を見上げて涙を溢した。
それは、あの日見た空と同じ、青空だったから。
ずっとずっと昔。
あの子が飛び立った日は、雲ひとつない晴天だった。
亡骸は温もりを失い、遥か遠くに飛び立ってしまった。
忘れることのない痛みが、また私の心を揺さぶる。
そして、今でもしきりに思う。
『また会って、抱きしめたい。』
あの日に似た風がまた、私を優しく撫でた。