◎仲間
遠い席の君へ
何気なく目を向けた
目があった
それだけで私達は通じ合っているんだって思えるなんて、単純すぎるかな
だって、君の下がった目尻はいつも私の心を和らげるの
◎手を繋いで
声よりも先に、後ろから迫ってくる足音で君だと気がついた。
振り向くといかにも残念そうな顔をするから、私はそこでやっと、君が私を驚かせようとしていたのだと察する。
ごめんごめんと謝り、機嫌をとるようにわたしは君に手を差しのべた。
私よりも随分と察しのよい君だから、どういう意味を持った行動なのかはすぐにわかったみたい。
でも君はすぐには握ってくれない。
私と同じように、けれども私とは少しズレた場所に、君の手が差し伸べられる。
あなたからどうぞ
君の目がそう言っている。
ようやく君の機嫌が元通りにできるというのに、今度は私の方がへそを曲げそうだ。
また君の声を聞きそびれてしまったのだから。
でも握る他に仕方がない。
この手を握ればすぐに、君の得意げな笑い声が聞こえることだろう。
そうすれば私達ふたりは途端に上機嫌になれるのだから。
◎ありがとう、ごめんね
短い間ですがとみんなに挨拶をしたあなた。
隣の席に座ったあなた。
授業中に咳をして申し訳無さそうにするあなた。
体操服に着替えるのが誰よりも早いあなた。
お昼ごはんを食べると教室から姿を消すあなた。
放課後につまらなさそうにひとりで帰るあなた。
私を追い抜きクラスで一番の成績をとってもだれにも自慢することのないあなた。
あなたは私の視線に気づいて、目尻を下げて見つめ返した。
私のことを知らないあなたのその眼差しを受け、見つめ合った数秒で、私は敗北を受け入れることができた。
あなたは言葉通り短い間だけわたしたちのもとにとどまり、私に初めて敗北の味を覚えさせた唯一人。
それでも
私は顔も声も思い出せないの。
目の前にも、瞼の裏にもいないあなたへ、
ありがとう、ごめんね。