夜の海。
真っ暗。何処までも真っ暗で、何も見えない。
車のライトだけが明るく照らしているが、
エンジンを止めてしまえば、一瞬で暗くなる。
ドアを開いて外に出れば。
むわっと生ぬるい湿った空気に、海の匂い。
防波堤を踏む感触は、昼間の暑さを伝えてくる。
ざざぁっと打ち寄せる波の音。
引いて押してを繰り返す。
見えないけれど、確かに音で伝わるのだ。
目の前に、海がひろがっていること。
別に、夜の海に来たかったわけじゃない。
海を楽しむなら、青く、水平線が続く海を見たい。
そのほうが、色んな色を楽しめる。
遠く近くの海の色、打ち寄せる波と泡。
砂と岩に、コンクリート。沢山の生き物たち。
また、明るい時間に来てみようか。
昼間の日差しは、痛そうだけれど。
遠くの方。海岸沿いの空の上。
ピカッと、何か光って消えて、
どぉんと、遅れて音が響く。
あぁ、始まった。今日は、隣町の夏祭り。
ちょっと大きな花火があがる。有名では無いけれど。
海の近くであげるから、海に来たら見えるんだ。
波の音を聴きながら。
小さく見える、花火を見つめて。
いつもと違う、夏の夜。
自転車に乗って。
小さい頃。
自転車に乗るのは、ステータスの1つだったと思う。
乗れるか、乗れないかで、友だちとの遊び方も変わった。
何せ行動範囲も変われば、移動にかかる時間も変わる。
遊ぶために全力をかけているのだから。
…子どもの世界も、なかなかシビアなのだ。
幼い頃は、ただ乗りたくて頑張った。
買ってもらった自転車が嬉しくて、ワクワクしながら跨った。
補助輪を、ガラガラ鳴らして走り出す。
ドキドキしながら、ひとり立ち。
ちょこっと大人になった気分。
転んだってへっちゃらで。
前に、先に進んでく。
お風呂につかった傷跡が。
痛くてすこし涙する。
頑張って乗れるようになったのに。
遊ぶためじゃなくなった。
跨ることも、なくなった。
久し振りに乗った自転車は、なんとも頼りなく走り出す。
サドルに乗ったお尻さえ、座り心地が落ち着かない。
体に力が入るから、ブレーキばっかり掛けちゃって。
自分で自分に、苦笑い。
あぁ、あんなにうまく乗れたのに。
知らぬ間に、忘れてしまった乗り方を。
どのくらいで思い出す?
… ケガしないように、気をつけよ。
心のけんこう。
さて。
世間は、夏の真っ只中。夏休みもそろそろ後半に入る頃。
テレビをつければ、お盆だなんだ。
休みの人は遊びにでも行くんだろう、そんなニュースが流れている。
夏の風物詩のスポーツも、大いに盛り上がっているようだ。
そんななか、サービス業は休みはない。
むしろ、今だろ?
と言うばかりに、仕事が入る。
そう、今の世の中。お盆休みもないところもあるのさ。
たまには帰省して、お墓参りとか、お盆らしいことをしたいものだ。
そろそろ、ご先祖さまに怒られそうな気がする。
あぁ、夏休みが恋しい。
実際に長期休みを貰った所で、休み明けが恐ろしいことになるよなぁ、なんて。
それでも、あの子供の頃の、だらっと過ごした休みが羨ましいのだ。
寝て、起きて。仕事をして、ご飯を食べて、お風呂に入って、また、眠る。
出来上がったルーティンは、なかなか、どうして変えられない。
変えるつもりが、無いだけか?
気力が無いのか、何なのか。
やりたいなぁとか、行こうかなぁとか思うだけ。
体は全然動かない。
…年のせいにしてみたり。
多分、余裕がないから。
今が、精一杯だから。
だから、余った時間で自分を甘やかす。
ちょっとぐらい、許されるよね?
私のこころも、大切にする時間だから。
だから。
暑いあつい夏の夜。しゅわっとはじける炭酸が。
すごく、似合うと思うんだ。
君の奏でる音楽
冷蔵庫を開ける。
さて、今日のご飯は何にしよう。
豆腐と、乾燥わかめが、どこかにあったはず。
実家から貰った手作り味噌も、いい感じに発酵が進んで、私好みだ。
消費期限が明日までの豚バラ肉で、生姜焼きでも作ろうか。
漬け込みはしないで、パパっと作るぐらいが簡単で美味しい。
付け合せは千切りキャベツ。
袋入りでとても便利なすぐれもの。
これで完璧だろう。
炊飯器から、しゅうっと音を立てて蒸気があがっている。
私のキッチンが、一番にぎやかになる時間。
朝ごはんは、時間があればなにか食べるが。
毎朝寝坊気味なため、そう回数は多くない。
昼ごはんは、外食かコンビニか。
即席ラーメンに、冷凍食品は強い味方だ。
だからこそ、晩ごはんはしっかりと。
一日頑張ったご褒美に。
でも、食べすぎには要注意。
窓際に置いた、iPadからお気に入りの動画を流しながら。
聴こえてくるのは、好きな声。
軽快なメロディーや、ちょっと寂しげな音楽も。
料理で動く手も、足も、すこしリズムにのりながら。
今日も美味しいご飯が、できそうだ。
麦わら帽子?
公園の中。ブランコの近く。
フラッと立ち寄ったその場所に、ちょんっと落ちていた。
砂場と滑り台、鉄棒。いくつかのベンチと水飲み場。
なんてことない小さな公園。
少し茂った雑草と、色あせた遊具の色。
所々剥げたペンキ。
少しだけ手入れされた花壇には、花が咲いていた。
久し振りに訪れたそこは、昔見たときより狭くて、小さくて。
何をして、遊んでいたんだったか…。
遠い記憶すぎて、うまく思い出せない。
拾ってふれた麦わらの感触も、久し振りにさわるものだった。
チクチクと肌を刺すものだから、あまり好きではなかったけれど。
こんがりとしたような、藁の匂いは好きだった。
さて。落とし主は現れるのか…。
ブランコの上に置いてみる。
風で飛んでしまうかもしれないが。
持ち主を待つのに、地べたよりは良いだろう。
私が、昔使っていた麦わら帽子は。
まだ、何処かにあるだろうか?