連作『私は人より何かが要る』
_1話 ある夏の日に_
どうだい、不幸の蜜の味は
そうか美味いか、そりゃあよかったなと
地面に向かって毒を吐いた
公園のベンチの下でこぼれたアイスクリーム
私が働いた分のお金と引き換えになったものだ
特に落ち込みはしなかった
ひとつため息をついて、
何事も無かったフリをして読書を始めた
フリは現実になるもので、そのうち何事も無くなった
少し前の悲劇など疾うに忘れた頃、
心地よい読後感で本を閉じると、
そこにアイスクリームと、
それに群がる蟻の群れがあったのだった
アイスクリームをこぼした人間のように、
自ら得た幸せを他人に掬われる奴がいる
こぼれたアイスクリームを喰らう蟻のように、
人の不幸せを享受して幸せになる奴がいる
夏に繁盛するアイスクリーム屋のように、
幸せを他人に与えることで幸せを得られる奴もいる
他者を幸せにすることで、自分も幸せになること
それが夢であり、私の素敵な大人像だった
あぁそういえば、
私の不幸が他人を幸せにすることが前にもあったなと
学生の頃を想起する
嫌な記憶を思い出してしまった
2025.8.11
#こぼれたアイスクリーム
_色_
例えば夢は白い絵の具のよう
例えば現実は黒い絵の具のよう
黒い絵の具には、何をどれだけ混ぜようと、
白い絵の具になることはできない
黒い絵の具を白い絵の具に近づけるなら、
きっと混ぜることではなく、
色を抜くことを覚えなければならない
だからきっと、現実を夢に近づけるには、
何か、色とりどりなものを手放す覚悟を
決めなきゃならないんだ
2024.12.4
#夢と現実
_架け橋_
白とも黒ともつかず
正義でも悪でもなく
誰の色にも染まらないように
自分だけの意志を貫くように
曖昧ながらも堂々と
境目を沿うように生きよ
光と闇の狭間で凛として咲き誇れ
それはまるで、
朝と夜との架け橋となってつぼみを開く
蓮の花のように
2024.12.2
#光と闇の狭間で
_盲目乙女_
あなたが特に恥じらいもせずに
私に距離を詰めてくるのは、
心の距離が離れているからだって
もう少し早く気づいてればよかった
私に興味があったなら、
もう少し慎重に距離を詰めるはず
そんなことにも気づけないほど、
私は盲目だった
振られて始めて振り返ってみて、
その事にやっと気がついた
2024.12.1
#距離
_いきわかれ_
あなたとわたし
ふたりわかれて
くもをはさんで
はなればなれで
2024.11.7
#あなたとわたし